地図を燃やす-路上の視野3 


 2014.12.1      人を旅にかきたてる魔力 【地図を燃やす-路上の視野3】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

この路上の視野シリーズでは本作が一番好きかもしれない。というのも、内容が作者の旅に関するエッセイや、ルポライターを始めるきっかけのエッセイなどが収録されているからだ。当然、共感できるエッセイもあれば、??と思うものもある。ただ、最後にそのエッセイが描かれた日付を読むと、毎回驚いてしまう。それは自分が生まれた年代に近いからだ。

エッセイを読んでいる間は、同年代の者が旅にでて感じたことが描かれているという印象がある。ふと、自分が生まれた時にこんなことをしていた作者のすごさに驚いてしまう。ルポライターを職業とするきっかけも、なんとも拍子抜けする安易さだが、それは時代のせいもあるのだろう。作者の旅関連のエッセイを読むと、どうしても触発されてしまう。

■ストーリー

著者は20代の頃「30までは何でもできると思っている。ところが30すぎると自分に可能なことが地図のようにはっきり見えてくる」との小沢征爾の言葉に強い印象を受けた。30を過ぎた今、その言葉がある生々しさを伴って明確になっていく。脳裏に浮ぶ地図をどうしたら燃やし尽くせるのだろうか。異国と自身を語る。

■感想
作者の代表作は「深夜特急」で間違いはない。そして、旅を描いた作者のエッセイは、当然ながら興味深く読むことができる。金のないユーラシア大陸横断。その後、資金に余裕ができた時も、過去と同じ感覚を味わいたいがために、貧乏旅行へと出かける。そこで作者が感じたことは…。

旅に関するスタンスが良い。金がないときには十円でも大事にし、納得いかなければ十円のために一日中クレームを言い続けることもいとわない。それが、金に余裕ができると変わっていく。年齢の変化と環境の変化により、過去と同じ旅は望めない。それは悲しいことだが、当然のことだろう。

本作に収録されているエッセイの末尾には、必ず日付が書かれている。それを読み、毎回驚くのは自分が生まれた年に近いということだ。自分が生まれたころにこんなことを経験していたのか?という驚きというか、あこがれのようなものを感じてしまった。

大学を卒業し社会人一日目に退職するなんてのはすごすぎる。今の時代ならば、自由な人というのは多いのだろうが、当時はかなり勇気のいる行動だったのだろう。ルポライターになったきっかけは、かなり拍子抜けしてしまうが、人生とはこんなものだと変に納得させる力がある。

フリーランスのライターであれば、仕事がなければ食うにも困るはずだ。それが、作者の他の作品を読んでも、あまりそんな描写はない。実際には金はないのだろうが、作者の性格がそう感じさせないのだろう。金がなければなしでよい。作者のエッセイを読んでいると、物欲はゼロなのでは?と思えてしまう。

本で一発当てて印税でウハウハなんてことはまったく考えない。売れっ子となっても、金のための仕事はしない。こんな考え方で仕事ができる作者は幸せだろう。普通のサラリーマンであれば、たどりつけない境地だ。

作者のエッセイは、人を旅にかき立てる魔力に満ちている。



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