帝都衛星軌道 


 2014.3.6    スリリングな誘拐事件 【帝都衛星軌道】  HOME

                     

評価:3

島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

「帝都衛星軌道」の前後篇と「ジャングルの虫たち」という中編が収録された本作。「帝都~」の営利誘拐の手法がスリリングだ。トランシーバーで犯人と連絡をとりながら移動する。トランシーバーは半径数キロ以内しか電波が届かないはずなのに、山手線を移動しながら連絡をとる。不可解な手口と目的のわからない誘拐が読者の興味を引き付ける。

前半で誘拐事件はある結末を迎える。そして、後半では仕掛けと動機が語られている。特に動機については作者の「秋好英明事件」をほうふつとさせる流れがある。トランシーバーでの通信トリックについては、これまた「都市のトパーズ」で語られている都市計画が大きな意味をもつ。誘拐事件の真相には驚かずにはいられない。

■ストーリー

都内で中学三年の男の子が誘拐された。犯人は身代金の受け渡し場所として山手線の車内を指定した。完璧と思われる包囲網を突破した犯人。そして驚愕のラスト!

■感想
「帝都衛星軌道」は、誘拐された息子を取り戻すため、主婦が山手線に乗り込み犯人と交渉する場面が山場だろう。トランシーバーで通信できる範囲は限られているはずが、警察がどこを探しても犯人らしき人物はいない。

走る電車と通信し続けるにはどのような仕掛けがあるのか。そして、目的のわからない誘拐と、誘拐事件の結末が、またさらに読者の興味を引き付ける。前編はまさにトリック、動機がまったく想像できないまますすむため、答えを知りたいという欲求ばかりが強くなる。

後篇では、すべてが明らかとなる。なぜ走る山手線と通信し続けることができたのか。意外な答えかもしれない。東京という都市の仕組みと、都市伝説的な流れを利用し、読者を納得させる答えが用意されている。動機の面では、作者のライフワークとも言える秋好事件に見立てた動機が語られている。

作者なりに、どうにかして秋好事件を好転させたいがために、このような流れにしたのだろう。誘拐事件の動機とその後の結末を思うと、特殊な状況を演出する必要があったのだろう。

「ジャングルの虫たち」は、ホームレスが過去の詐欺仲間を回想し、自分たちが病院に搾取され続けたことに気づく物語だ。現在の小さな詐欺手口について、様々なパターンが語られている。そんなにうまくいくのか?と思う手口もあれば、確かに騙される!と思う手口もある。

詐欺だけで生きてきた男が、最後には病院に搾取される。本作を読むと、この世の中には信じられる人間はいないと思えてしまう。騙された方が悪いと言ってしまえば簡単だが、最後には社会的弱者が騙される流れには、なんだかなぁと思わずにはいられない。

現代を象徴するような作品だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp