秋好英明事件 


 2014.1.22   衝撃的な事件の真相 【秋好英明事件】  HOME

                     

評価:3

島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

実在の事件を詳細に描いた作品。それだけでも衝撃的だが、秋好英明の生まれから現在までを描き、壮大な物語となっている。本作を読むと、間違いなく怒りがわいてくる。英明の起こした事件はさておき、作中で堂々と嘘を並べる存在については、怒りばかりが心に残る。貧しく苦労した幼少時代。職を転々としながらも、一時的に裕福な暮らしを経験する英明。

ちょっとした決断の誤りが英明の人生をどん底へと突き落す。ただ、ひとつの決断ミスがすべてを崩壊させたのではない。無断で退職を繰り返すあたり、相手に誤解を与え、自ら負の連鎖へと向かっているようにすら思えてくる。なん度も持ち直す機会がありながら、どこか刹那的な雰囲気がある。他人の人生をすべて読むと、どのような人物であれ、名作になることは間違いない。

■ストーリー

昭和51年に福岡県で発生し、日本列島を震撼させた「一家四人惨殺事件」。満州で生まれ、極貧のなかに育ち、あらゆる辛酸を嘗め尽くしたあげく事件に至った一人の男の姿は、読むものの必を揺さぶらずにはおかない。ミステリー界の雄が渾身の力で対象に肉薄し、その謎と背景とを解き明かした、日本版『冷血』ともいうべき大著。

■感想
秋好英明という名や事件については、作者の作品を読むまでまったく知らなかった。今現在も裁判で争うこの事件。どのような経緯で事件が起こり、裁判で何を争っているのかが詳細に描かれている。英明の生まれから事件を起こすまでが詳細に描かれており、何が英明に事件を起こさせたのかはわかる。が、共感はできない。

人生、良い時もあれば悪い時もある。英明の人生は裕福な時期もあれば、どん底の時期もある。良い時を続けようと思えば続けられたはずが、ギャンブルや放浪癖により幸せをあえて捨てているような気さえしてきた。

人生とは何があるかわからない。子供時代は優等生で正直者と言われた英明が、のちに嘘つき呼ばわりされる。客観的に、英明が根っからの悪人でダメ人間だとは思わない。ギャンブル好きで、すぐに職を変えるという欠点はあるが、それでも連続殺人事件を起こすような人物には思えない。

英明の人生を狂わせる原因のひとつひとつは読んでいれば気づくことになる。なぜ?という感覚もわいてくる。ちょっといざこざがあったくらいで高給の仕事を辞めるなど、英明の高いプライドが人生を崩壊させたような気がした。

ラストでは英明の裁判シーンが描かれている。事件を起こしたのは英明で間違いはない。ただ、その共犯関係についての争いだ。本作を読めば、誰が嘘を言っているのかわかる。なぜそんな心境になったのかがわからない。

英明の事件の根本として無罪を訴えるのではなく、共犯関係を立証しようとしている。英明の心の闇というよりも、事件の全容はすでに明らかとなっており、乏しい証拠からどうやってそれを証明するかに力が入れられているような気がした。

どんな人生であれ、人の一生にはドラマがある。まして、凶悪事件を起こした犯人ならば、なおさらだ。

人と違った切り口で語るというのも重要なのだろう。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp