2014.7.28 旅に出たい気持ちを抑えつつ 【旅する力 深夜特急ノート】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
「深夜特急」の作者が、どのような経緯で旅をすることになったかを語る。少年時代の最初の旅の経験から始まり、旅を終えてから十年後に「深夜特急」を書くことになった理由など、「深夜特急」ファンにはたまらない情報が盛りだくさんだ。旅だけでなく、作者が新米ライター時代に調査情報編集部で経験した出来事も非常に興味深い。
貧乏が苦にならず、自分の好きなことにはとことんのめり込み、行動力がある。「深夜特急」に影響され旅にでた様々な若者についても言及している。若い時にしかできない旅の仕方だと盛んに語っているのは、遅くに訪れた旅への情熱により、人生を踏み外す人を抑制するためなのだろう。本作を読むだけでも、旅にでたくなる不思議な魔力がある。
■ストーリー
旅とは何か、なぜ人は旅へと駆り立てられるのか? 冒険と叙情に満ちた紀行文学であり、瑞々しい青春記でもある名作『深夜特急』の誕生前夜、若き著者には秘められた物語の数々があった……。幾多の読者からの絶えざる問いかけに初めて、そして誠実に応えた〈旅〉論の集大成、著者初の長篇エッセイが本書である。「恐れずに。しかし、気をつけて」これから旅立つすべての人に――。
■感想
ユーラシア大陸を横断した作者は、どんな少年時代をすごしたのか。作者の初めて経験した旅から始まる本作。すでに中学生のころから寝袋を持ち野宿しながら旅するというのはすさまじい。やはり、それなりの素養はあったのだろう。旅好きの作者が、大人になり、1年もの長い間の放浪の旅を続けたのは必然かもしれない。
本作では旅ばかりではなく、作者のライターとしての成長も描かれている。旅に出る前に作者のルーツが作られた「調査情報」編集部での仕事は非常に興味深い。恵まれた環境により作者が形作られたのがよくわかるエピソードの数々がある。
旅を終えた後、十年もの間、文章化されなかった理由が語られている。てっきり、旅から帰ってくると、その感動が薄れないうちに描かれた作品かと思っていた。まさか十年もの長い間寝かされ続け、難産のすえに生み出された作品だというのに驚いた。多くの若者を旅へと駆り立てる力のある作品。
二十代だからこそできた旅だと作者は言う。その気になれば、同じような旅はどんな年でもできるだろう。ただ、二十代の時と同じような感性で旅を受け止めることはできない。それは、納得できることであり、自分が二十代でないことが無性に悲しくなった。
本作では、「深夜特急」をテーマとしたドラマについても語られている。同じころブームになった猿岩石の旅についても触れられている。猿岩石が「深夜特急」をまねていたのは知っていたが、作者に許可なく企画がスタートしていたらしい。
本家のドラマについても、見たことはないが、微かに印象に残っている。今、深夜特急のような旅はできないが、ドラマのDVDを見て旅をしたつもりになるしかないだろう。読者を無性に旅へと駆り立てる作品であることは間違いないが、その気持ちを発散する方法を微かに示してくれている。
二十代のころに「深夜特急」と本作を読んでいたら、間違いなく旅にでていただろう。
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