世界の終わり、あるいは始まり 


 2014.5.29     逮捕、報道、家族崩壊 【世界の終わり、あるいは始まり】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

連続子供誘拐事件が発生し、世間の話題となる。自分には関係ないと思っていた富樫は、息子の雄介の部屋で数々の証拠品を見つけ出す。自分の息子が誘拐事件の犯人だとしたら…。逮捕、報道、家族崩壊と、その後の流れは容易に想像できてしまう。そんな富樫の苦悩が描かれた本作。

本作は、富樫の想像をベースに描かれている。その方式に気づかず、読み進めていると心が苦しくなる。途中で仕組みがわかると、少しは気持ちが楽になったが、それでも辛いことにはかわりない。自分の息子がとんでもないモンスターだとわかった時、世間のバッシングをすべて受け止める覚悟はあるのか。家族はいったいどうなってしまうのか。真に迫る迫力がある。

■ストーリー

東京近郊で連続する誘拐殺人事件。誘拐された子供はみな、身代金の受け渡しの前に銃で殺害されており、その残虐な手口で世間を騒がせていた。そんな中、富樫修は小学六年生の息子・雄介の部屋から被害者の父親の名刺を発見してしまう。息子が誘拐事件に関わりを持っているのではないか?恐るべき疑惑はやがて確信へと変わり…。既存のミステリの枠を超越した、崩壊と再生を描く衝撃の問題作。

■感想
自分の息子がとり返しのつかない犯罪を犯したとしたら、それは世界の終わりとかわらないのだろうか。世間で話題となる残酷な誘拐事件。息子が犯人だとしか考えられない状況を知った富樫はどうするのか。この手の作品は心が痛くなる。

奥田英朗の「最悪」や「邪魔」に近いのかもしれないが、どうしようもない最悪な事態が目の前にせまっており、回避できない。悪い方への流れを決して止めることはできない。妻は体を怖し、娘はひとり遠い親戚の元へ…。仕事は、家庭は、実家にすら被害がおよぶ状況をどのようにして乗り越えるのか。本作では恐怖の状況がツラツラと描かれており、解決策は描かれていない。

富樫が想像する最悪のパターンはいくつかある。が、息子を信じて良い方向へと考えようとしても、別の悪い状況へ移り変わるだけ。なんだか八方ふさがりだが、すべては状況がそうさせるのだろう。必ず子を持つ親が考えるのは、自分が富樫の立場になったらどうするか?ということだ。

はっきり言えばよくわからない。よくわからないから読んでいて苦しくなるのだろう。答えがないのは、抜け出せない地獄だと分かっているからだ。すべてが夢であってほしい、そんな思いが込められた作品のような気がした。

本作の仕組みをどう評価するか、人それぞれだろう。自分の場合は、仕組みに気づくまではドキドキした。どこかで雄介の無実を証明する展開になるのでは?と期待したが、次々登場する事実に気持ちが沈みながらも、どのような結末になるか期待しながら読み進めた。が、仕組みに気づくと、驚きと共にほんの少しだけがっかりした。

その後は、様々なパターンの富樫親子の行く末を読みつづけ、多少はテンションが下がるが興味が薄れることはなかった。息子が罪を犯した瞬間、親はどのようなことを考えるのか。結論は出せないということなのだろう。

最悪の状況は、様々なパターンがあるものだ。



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