邪魔 上  


 2011.3.1  平凡な日常が壊れていく恐怖 【邪魔 上】

                      評価:3
奥田英朗ランキング

■ヒトコト感想

最悪と同じ流れになるのだろう。様々な登場人物たちが、どうにもならない状況へと追い込まれていく。上下巻に分かれるため、本作の段階ではまだ大きな不幸はおとずれていない。ただ、不幸の片鱗は見えている。夫が犯罪を犯したのではないかと疑うパートの主婦。ヤクザと警察に追い詰められるなんちゃって不良の高校生。仲間の監視に嫌気がさす刑事など、癖のある人物たちばかりだ。それらが一同に集まり、何か大きな出来事が起こるのだろう。ジワジワと足元から這い上がってくるような恐怖。平凡な日常が壊れていく様は、読んでいると鳥肌が立ってくる。作中に登場してくる者たちが、平凡であればあるほど、感情移入しやすいのだろう。

■ストーリー

及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供二人と東京郊外の建売り住宅に住む。スーパーのパート歴一年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がる。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織りこんだ傑作。

■感想
平凡な日常を求めているはずが、いつのまにか事態はとんでもない方向へと動いていく。本作に登場するキャラクターたちは、何か大それたことをしようだとか、一旗あげてやろうなんて野心を持っているわけではない。ただ、平凡に暮らしたいだけのはずだ。郊外の建売住宅に住み、スーパーのパートで小銭を稼ぐ生活を続けたい主婦。悪い友達と遊びながらも、大学には進学しようとする高校生。同僚を監視するという上司命令にいやいやながら従う刑事。すべてが、平凡な日常の一場面にすぎないはずだった。それが、すこしづつ歯車が狂っていくように、おかしな方向へと流れていく。

上巻ということで、はっきりとした結末はでていない。しかし、面白くなりそうだという雰囲気はある。放火事件の犯人が誰かというのが、ミステリーとして成立するのか。それとも、作中の登場人物と同じような不安感を持たせるために、そうしているのか。犯人が誰かというのが明らかになったとき、物語は一気に動き出しそうな気がした。本作では、特にパートの主婦の感情が、やけに心に響いてくる。夫が何か重大な秘密を隠しているのではないかという疑い。平凡な日常が崩れる恐怖。確認したくてもできない、真綿で首をしめられるような状態はとても耐えられない。

ヤクザと警察に追いつめられた高校生であっても、なぜそうなったのかという疑問ばかりがつきまとう。最悪でも感じたことだが、物語は決して良い方向へは進まないだろう。救いようのない状況の中から、どのようにして、かすかな希望が示されるのか。人生を半ば諦めた刑事や、刑事に取り入ろうとするヤクザなど、物語の鍵になりそうな人物は多数存在している。本作では、主要キャラクターたちの繋がりはない。しかし、下巻ではしっかりと顔を合わせ、何か最悪な状況へと追い込まれていくのだろう。

平凡なだけに、感情移入しやすい反面、心理的にズシリと重くのしかかってくる内容だ。

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