モルフェウスの領域 


 2014.2.14    未来の凍眠医療 【モルフェウスの領域】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

現代の医療ではありえない”凍眠”を描いた作品。相変わらず、過去の作品からキャラクターを登場させているので、「ナイチンゲールの沈黙」や「ブラックペアン」を読んでおくべきだろう。印象的なキャラクターが、うっすらとだが過去をにおわす。それはファンにはたまらない仕掛けなのだろう。本作はそれら過去の資産と、新たなキャラにより、もし未来に凍眠が実現されたとしたら起こりそうな問題を先取りしている。

物語を読むと、現実性は薄いように感じられた。まず倫理的な問題が大きく、目覚めないリスクも高い。技術的な側面よりも、作中で語られているように法律的な問題の方が大きいのだろう。結末間近の涼子の決断には驚かされずにはいられない。

■ストーリー

桜宮市に新設された未来医学探究センター。日比野涼子はこの施設で、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年の生命維持業務を担当している。少年・佐々木アツシは両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために5年間の“凍眠”を選んだのだ。だが少年が目覚める際に重大な問題が発生することに気づいた涼子は、彼を守るための戦いを開始する。人間の尊厳と倫理を問う、最先端医療ミステリー!

■感想
現代の医療では治らない病を、未来における医療の進歩に賭ける子供の物語。アツシの独特なしゃべり口調で、すぐに「ナイチンゲールの沈黙」を思い出した。5年という期間限定でありながら凍眠することのリスクと、法律的な問題が描かれている。

現代でも凍眠を希望する人はいるだろう。今の人生を捨てても良いと考えるくらいの決断だが、そこには大きなリスクがある。単純な生命のリスクだけでなく、目覚めた時、思ったほど医学が進歩していなかった場合、誰が責任をとるのか。深く考察されている。

作者の作品には、信じられないほど高い能力を持つ人物が登場する。今回もコールドスリープシステムを作った技術者がそうだ。雰囲気は他の作品とかぶってしまう。キザな物言いと、なんでも瞬時に理解し先読みする力。

あまりに完璧でありながら、多少性格に難がある。このパターンには慣れっ子なので、とりたててインパクトはない。それでも、コールドスリープシステムの小難しい原理と、記憶を消去してしまう悪魔のようなソフトなど、物語を盛り上げる要素は多数ある。

本作のオチは驚くものだ。主役である涼子がある決断をする。それは整合性のとれた行動だが、「まさか?」という思いがある。ちょうど作中の登場人物とまったく同じ驚きなのかもしれない。システムとして欠点ばかり目立つ凍眠だが、未来の医療として実現可能なのだろうか。コスト的な問題や、涼子が指摘した問題もある。医療の未来を先取りした物語と言えるのだろうが、問題までは解決できないまま終わっているのが少し残念だ。

普通の人では考え付かない、凍眠の問題が盛りだくさんだ。



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