深夜曲馬団 


 2014.7.30     ストイックな男たち 【深夜曲馬団】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

ハードボイルドな短編集。どの短編の主人公も、世間に対して斜に構えており、幸せで家庭的な雰囲気とは縁遠いオーラをかもしだしている。頭が切れ、寡黙で目的を達成するために周到な準備をする。影のある主人公が、ひとつの目的に向かって邁進する。「インターバル」の主人公は、一般的なサラリーマン風に描かれてはいるが、ストイックな考え方はやはりハードボイルドと言って良いのかもしれない。

楽な方へ流れ、妥協し、日々をのんべんだらりと過ごす普通の中年男とは違う。すべての主人公たちはストイックではあるが、そこに明るさや幸せを感じることはない。幸せを犠牲にしてこそ生み出せる雰囲気なのだろう。ハードボイルド好きにはたまらない短編集だ。

■ストーリー

沢原は焦っていた。一枚の写真と物語で世界を構築するフォトライターとして、手応えある狙うべき像が見つからない。感性は鈍化し、才能は枯渇してしまったのか?沢原はカメラを手にやみくもに街を彷徨いた。理由のない怒りを覚えながら。その男の目は暗く、倦んでいた。沢原は鏡ごしに初めてその男と対峙した時、直感した。“こいつだ”と。そして、男の連れこそ沢原が忘れることのできない女性・彩子であった…。

■感想
「空中ブランコ」は、「標的はひとり」に登場した加瀬のその後の物語が描かれている。成毛という強力なテロリストとの対決に勝利したあとの加瀬はどうなったのか。「研修所」から新たな刺客が登場し、そこで加瀬と対決することになる。

すでにキャラクターは把握できているので、スムーズに物語に入り込むことができた。基本は、殺し屋同士の戦いなのだが、ひとつの大きな戦いが終わったあとも、少しも休まることなく戦い続ける人生が描かれている。加瀬がどれだけ抜け出そうとしても、抜け出せない世界がそこにある。

「インターバル」はかなり印象的だ。普通のサラリーマンが一カ月の休みに故郷へ帰り体を鍛え始める。腕立て腹筋そしてジョギング。昔は楽にできたことが、今はできない。少しづつ時間をかけていくにつれ、昔の研ぎ澄まされた感覚を思い出す。

まるで、引退した殺し屋が現役へ戻るためのトレーニングかと思うほど、ストイックな描写の数々だ。結局のところ、そのストイックさに惹かれてしまう。一カ月の休みをすべて自分の体を鍛えることに使う、その精神力に圧倒されてしまう。

「アイアン・シティ」と「フェアウェイパーティ」は同じ殺し屋が登場してくる。日本人と黒人のハーフが圧倒的な格闘能力で他者を始末する。そして、特徴的なのは、ひとりの人物を守る側と襲う側両者の視点で描かれているということだ。

最終的に対決ということにはならないが、ステレオタイプのハードボイルドキャラクターたちが動き回るのはワクワクしてくる。誰もが思い描く展開なだけに、驚きやどんでん返しはないが、安心して読むことができる。

ハードボイルド好きは、「インターバル」も気に入ることだろう。



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