標的はひとり 


 2014.6.25     組織の力=情報力 【標的はひとり】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
タイトルどおり、成毛というひとりのテロリストを追う物語。主人公である加瀬が元は情報機関に属していたため、辞めてからも常に監視された状態となる。平凡に暮らしたい加瀬が、ある依頼をこなすことで、完全に自由の身になれる。加瀬のバックグラウンドの奇妙さと、成毛のテロリストとしての能力の高さが物語を面白くしている。

正体不明のテロリストをさぐるため、大企業の会長や、右翼の重鎮や公安までもが血眼になる。感じるのは、組織の力の大きさが、そのまま情報力の差となるということだ。成毛と加瀬の直接的な戦いはほとんどない。テロリストや裏の仕事を請け負ってきた者たちの、熱き戦いが描かれている。

■ストーリー

加瀬崇、38歳。かつて私は、「研修所」と呼ばれる機関に属していた。日本の暗部を担い、国家が邪魔だと判断した人間を闇から闇に葬る陰の組織だ。組織を離脱しても私の心に傷は残った。そんな私に断わりきれぬ依頼がきた。標的は世界一級のテロリスト、成毛泰男。彼は全世界の司法機関の追求をかわし続け、機械のような正確さと残忍さで戦い続ける1匹の獣だ。狙う側と狙われる側との目に見えない殺しのゲームが始まる

■感想
「研修所」という機関に属していた加瀬。裏の仕事を政府から正式に依頼され行ってきた組織の一員。一度裏の組織に属すると、常に監視の対象となる。加瀬が属していた組織の不気味さがすさまじい。特に加瀬の元上司である宮崎の描写に妙な怖さがある。

この手の裏稼業の男たちは、強力な格闘術を身につけ、身体能力も高く、鍛えた体つきをしているイメージだ。それが、太った醜い体をしていながら、頭脳労働だけを担当し、電話で指示だけをする。この宮崎のアンバランスさが恐ろしくなる。

加瀬が依頼を受けた組織の力もさることながら、本作では様々な力をもった者たちが登場する。政府の高官と交渉できる会長。あらゆる情報が集まる右翼の大物。そして、元は成毛の同僚ながら、今は高校教師を続ける男など、多種多様な人物が登場する。

何かを得るために必ず対価を求める者もいれば、義理と人情で動く中国の組織もある。力のある組織同士の戦いもある。それらに巻き込まれながら、加瀬と成毛はお互いの目標を達成しようと動き出す。

加瀬と成毛の最後の戦いはすさまじいようで、あっけない。本来の戦いはこんな感じなのだろう。ハードボイルド小説に良くあるパターンだが、銃を何発も打ち合いながら、ギリギリのせめぎあいなど普通はない。一瞬の隙を見せた方がやられるだけ。

それも一発の銃弾で死ぬ可能性はある。ふたりの戦いが始まるまでの助走はかなり長い。が、戦いはすぐに終わってしまう。このあっさりとした流れは良い。組織同士の軋轢など、一瞬の戦いの前ではどうでもよいことなのだろう。

ラストの戦いがあっさりと終わるところが、本作のポイントだ。



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