コインロッカー・ベイビーズ 


 2014.3.20    色あせない先進性 【コインロッカー・ベイビーズ】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

30年以上前の作品なのに古さを感じない。いつまでたっても先進性があるのは異常なことだが、当時、本作をリアルタイムに読んでいたら、どんな感想をもっただろうか。実は10年前に本作を一度読んでいるのだが、その時の感想は読みにくく、なんだかよくわからないという印象だった。それが、今読むとストーリーにグイグイ引き込まれ、上下巻を一つにした長大な物語をあっという間に読んでしまった。

そして、面白いのが、読む前はストーリーをすっかり忘れていたのだが、読み始めるとみるみるうちに頭の中に物語が浮かんできた。特に印象的な言葉は、読んだ瞬間に当時も衝撃を受けたことを思いだした。本当にすばらしい作品というのは、知らず知らずのうちに頭の中に強く印象を残すのだろう。

■ストーリー

1972年夏、キクとハシはコインロッカーで生まれた。母親を探して九州の孤島から消えたハシを追い、東京へとやって来たキクは、鰐のガリバーと暮らすアネモネに出会う。キクは小笠原の深海に眠るダチュラの力で街を破壊し、絶対の解放を希求する。

■感想
キクとハシとアネモネの物語。ストーリーはドラックや酒などに酔う感じが近いのかもしれない。抑圧され続けた若者が、はじける雰囲気に近い。物語はものすごく濃い。そして、情報量がすさまじい。ちょっとしたエピソードに様々な情報が詰まっている。

ほんの数行の文章だが、それだけでひとつの短編が書けてしまうほどの濃度だ。そのため、読むのはかなりしんどい。最近の読みやすい物語ばかり読んでいる人にはつらいだろう。数ページの中にあらゆる情景が詰まっているため、頭をフル回転し、物語についていく必要がある。

昔は気づかなかった面白さが、今読むと理解できた。登場人物たちの心境が理解できないのは変わらないが、ストーリーとしての面白さは理解できた。キクが突然変貌し、母親に対して散弾銃を向けた瞬間、鳥肌がたった。

空手の達人の頭が狂いはじめ、自分では制御できなくなる瞬間の「もうダメだ」という言葉。ひとつひとつを細かく説明していてはきりがないが、濃密な物語に鳥肌を立てながら楽しむことができた。そして、自分が年齢を重ねたことで、初めて読んだときに感じたイライラをまったく感じなかったことに驚いた。

30年以上前の作品でありながら、新しい。本作のようなテイストの作品は、作者にしか描けないだろう。「半島を出よ」だとか「愛と幻想のファシズム」が好きであれば、間違いなくはまるだろう。ただ、あまりに濃密な物語にどっぷりはまりこむと、若く怖い物知らずの時期ならば、大きく影響を受けすぎてしまう危険性がある。何かを諦めた人を自暴自棄にさせる力がある。

キクやハシにあこがれ、凶行に走る可能性はあるのだろうか?恐らく、普通の若者ならば、本作を真面目に理解し読むのは辛いだろう。どこか精神を病んでいる人が必死に読むと、何が起きるかわからない。それくらい影響力のある作品だと思う。

これほど一度読んだときと印象の変わる物語もめずらしい。



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