愛と幻想のファシズム 上 村上龍


2009.2.25  なぜかワクワクしてしまう 【愛と幻想のファシズム 上】

                     
■ヒトコト感想
世界恐慌において、突如日本に登場したファシストの物語。すでにかなり前の作品だが、今読んでも色あせる雰囲気ではない。狩猟社という組織をつくり、カリスマとなった鈴原冬二。この冬二にどれだけ魅力を感じることができるか。世界に翻弄される日本で救世主となりえる可能性のあるこの冬二の活躍にどれだけワクワクできるのか。既存の巨大組織に対してカリスマ的魅力をはっきし、ブレーンたちと巨大な組織を打ち破っていく。その型破りな行動力と、残忍さ。嫌悪感を感じるどころか、極上のエンターテイメントとして楽しむことができるから不思議だ。嫌な気持ちにならない。フィクションとして安心しているのもあるが、なんだか無性にワクワクしてしまった。

■ストーリー

激動する1990年、世界経済は恐慌へ突入。日本は未曽有の危機を迎えた。サバイバリスト鈴原冬二をカリスマとする政治結社「狩猟社」のもとには、日本を代表する学者、官僚、そしてテロリストが結集。人々は彼らをファシストと呼んだが…。

■感想
もしかしたら、今の日本もこの時代に近いのかもしれない。不況の真っ只中で政治が腐敗し、国中で救世主を求めている。今現在、もし冬二のような人物が現れたら、マスコミには叩かれるだろうが、何か大きなできごとを起こしそうな気がする。それほど魅力あふれるストーリーとなっている。やっていることはむちゃくちゃで、その理論にはモラルも何もない。ただ、強いものが勝つ。弱者を切り捨てる世界だが、冬二の演説には妙に説得力がある。能力の高い人々からどんどんと冬二に引き付けられていく。その原理がよくわらかないが、この強引さも良い。

冬二というカリスマを担ぎ上げ、日本をどのように変えていこうとするのか。はっきりいえば、現実味もなければあまりに都合が良すぎるように感じてしまう。元暴走族をどんなに鍛えようとも、規律正しい戦士になるはずがない。いくら能力が高いからといっても、少人数でできることは限られている。かなりご都合主義的だが、それらが気にならないほど強烈なインパクトがある。世界を牛耳る巨大な経済的支配者である”ザ・セブン”そんな巨人にアリのような狩猟社が立ち向かう。判官びいきではないが、この二者の戦いにはワクワクせざるお得ない。そして、それがページをめくらせる手を止められない原因の一つだ。

上巻ではまだ成長途上である狩猟社が描かれている。これが下巻になり、全てが崩壊するのか、それともザ・セブンに変わって世界を牛耳る組織に変貌を飛べるのか。一人のファシストがどこまで権力を手にすることができるか。正直言うと感情移入はできないが、傍観者として狩猟社の躍進ぶりを見ているのはとても楽しい。いずれ滅びゆくとしても、そこまでのサクセスストーリーは必見だ。これからどのようなストーリーとなるかは未知だ。しかし、これから先も労働組合の委員長が錯乱したような衝撃的場面がいくつも登場しそうな予感がする。

ファシストのサクセスストーリーと言うべきだろうか…。



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