一瞬の夏 上 


 2014.4.12    復帰を目指すボクサーの執念 【一瞬の夏 上】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

敗れざる者たち」で描かれたカシアス内藤のその後が描かれた作品。華々しいデビューを飾り、期待されながら、本人のやる気のなさで日の目をみなかったボクサー。30を目前にしてボクシングに打ち込もうと奮闘する。カシアス内藤が復帰戦を行うまでを描いた上巻。4年のブランクの大きさや、カシアス内藤を取り巻く環境の変化など、作者の目から見た状況がそのまま描かれている。

才能がありながら、それを活かそうとせず、大成しなかったボクサー。作者のもどかしさと、復帰を応援する気持ちが強く伝わってくる。が、どこかで、作者自身が懐疑的で、カシアス内藤の復帰に危うさを感じる場面がある。ボクサーのストイックな生活に驚き、少ないファイトマネーには驚愕するしかない。だが、これが世界チャンピオン以外のボクサーの姿なのだろう。

■ストーリー

強打をうたわれた元東洋ミドル級王者カシアス内藤。当時駆けだしのルポライターだった“私"は、彼の選手生命の無残な終りを見た。その彼が、四年ぶりに再起する。再び栄光を夢みる元チャンピオン、手を貸す老トレーナー、見守る若きカメラマン、そしてプロモーターとして関わる“私"。一度は挫折した悲運のボクサーのカムバックに、男たちは夢を託し、人生を賭けた。

■感想
カシアス内藤が突然復帰する。過去、韓国にまで同行した作者は、カシアス内藤の復帰戦までを取材することになる。黒人と日本人のハーフであるカシアス内藤。正直よく知らない。が、作者の作品にちょくちょく登場するので、どんな人物かよくわかっている。

30を前にして突然ボクシングに打ち込みだし、その才能から、めきめきと力を戻していく。ただ、作者の描き方の問題なのか、手放しでカシアス内藤の成長を喜ぶ描写はない。どこか懐疑的で、復帰戦に対して不安を残すような描き方をしている。

スパーリングをすれば、他を寄せ付けない圧倒的なテクニックを披露する。が、作者はモハメド・アリを引き合いにだし、復帰のむずかしさを語る。過去のカシアス内藤を知るだけに、作者としては信頼したい気持ちは強いが、そう甘くないという思いがあるのだろう。

単純に4年のブランクの過酷さもあるが、ボクサーのきつい練習と、過酷な減量についても描かれている。今もそうなのかわからないが、ボクサーは水を飲まないということに衝撃を受けた。同じ水分を取るなら、栄養のあるオレンジジュースを飲む。単純にカロリーだけではない、過酷な状況を想像してしまう。

ボクサーをとりまく環境の厳しさを描いているのも本作の特徴だ。過去のことであれ、元東洋チャンプのファイトマネーが10万というのは衝撃的だ。働きながらトレーニングをし、数ヶ月に一回試合をし、微々たるファイトマネーを得る。

ボクサーと言えば、世界チャンピオンの印象しかないが、それは間違いだと気づいた。末端のボクサーの厳しい生活というのは、一般人では知りえないことだ。上巻では復帰戦を見事勝利で飾るカシアス内藤が描かれている。が、下巻でどうなるのか。そのままとんとん拍子に進むはずがない。

カシアス内藤の行く末を、読まずにはいられない。



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