2014.6.29 ボクサーの過酷さ 【一瞬の夏 下】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻では見事に復帰戦をかざったカシアス内藤。そこから韓国で試合をするまでが描かれているのだが…。ボクシングの興行を開催するのはとてつもなく大変なことだということがわかった。カシアス内藤を移籍させるにしても金が必要。その後のマネージメント契約にも細かな条件をつけ、最後には金の話になる。ファイトマネーについても、少ないところからさらに経費が引かれる。
どれだけ良い試合をしたとしても、それだけで生活費が賄えるほどはもらえない。ボクサーの過酷な状況と、契約社会の厳しさを感じさせられる。作者のカシアス内藤に対する強い思いから発せられるイライラというのも納得できる。結果論だが、ボクサーの過酷さを考えると、本作の結末でよかったのではないかと思えてしまう。
■ストーリー
偶然によって出会ったいくつかの情熱が、一つの目的に向かって疾走する。東洋タイトル戦の実現に奔走する“私"。だが、生活のためにはトレーニングを犠牲にしなければならないボクサー、対立する老トレーナー。絶望と亀裂を乗り越えて、最後に彼らの見たものは……。一つの夢をともにした男たちの情熱と苦闘のドラマを“私ノンフィクション"の手法で描く第一回新田次郎文学賞受賞作。
■感想
復帰戦を勝利でかざり、次のステップへと進むカシアス内藤。韓国でライバルである柳と闘うため、作者を含めて様々な関係者たちが奔走する。ボクシングの世界では、何をするにも金が必要だと思い知らされる流れだ。ジムの移籍に対しても金が必要。
マネージメント契約に関する様々な条件が付き、試合をするにも金が必要で、様々なオプション契約が付きまとう。何かひとつのことを成し遂げようとすると、とんでもなく金と労力が必要だということがわかる。作者のカシアス内藤に対する情熱がどこからわいてくるのか、不思議な部分もある。
カシアス内藤の経済的な状況もまた強烈なインパクトがある。ボクサー全般に言えることなのだろうが、ファイトマネーの少なさには泣けてくる。本作ではジム移籍のゴタゴタがあり、契約としてファイトマネーの話が細かく描かれているのだが、衝撃的だ。
一試合した結果、五万円しかもらえないなんてのはすさまじすぎる。ボクシングだけでは生活できないとは想像していたが、これほどまでとは思わなかった。作者や仲間が援助したとしても、それは一時的なものでしかない。衝撃的なボクサーの真実がここにはある。
念願かなって韓国で試合をする内藤。それまでの紆余曲折は強烈だ。結末にしても、ある程度想定できる流れだ。作者を含め、カシアス内藤に関わった人々は、この結果をすんなり受け入れたのだろう。なぜそこまでカシアス内藤にこだわったのか。
作中では少し語られているが、納得できるものではない。まさにタイトルどおり、一瞬の夏に何かを賭けてみたいと思ったのだろうか。結果はどうあれ、すべての関係者が満足したのか?作者とカシアス内藤は満足したのではないかと思えてきた。
ボクサーの実状がここにある。
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