イルカと墜落 


 2014.1.27   飛行機事故の生々しい描写 【イルカと墜落】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

テレビ番組の取材のためアマゾン奥地へと向かう作者とテレビクルー。前半は、アマゾンの奥地へ向かうことのハードルの高さと、予定外の出来事により遅々として進まない取材を嘆くということに終始している。日本的感覚でいると、海外での取材はとんでもなく大変なようだ。ただでさえ大変な海外取材。その対象が未開の地であればなおさらだ。食べ物や泊まる場所の問題。「深夜特急」で貧乏旅行を経験した作者だからこそ、平然と対応できたのだろう。

後半は、取材中に発生した飛行機事故について描かれている。人生で飛行機事故に合い、無事生還するなんてことは普通の人にはできない経験だ。事故の瞬間、死に直面した作者が考えたことは…。死に直面した者の言葉には真実味がある。

■ストーリー

なんてこった。冗談じゃなく、本当に墜落しちまいやがった。私は胸の中でそうつぶやいていた。よかった、助かったとは思わなかった―アマゾンの奥地で遭遇したピンクのイルカとひとつの事故。「死者はもとより重傷者すら出なかったことは奇跡」といわれた程の惨事で、そこにあるだけの「死」と向かい合ったブラジルへの旅。乗っていたセスナ機がブラジル・アマゾンで不時着。事故の生々しい一部始終を綴った「墜落記」と、その序章にあたる「イルカ記」で描く旅の記録。

■感想
アマゾンの奥地で取材をする。日本人的感覚であれば、約束したことは守られ、スケジュールどおりに事は進むと思う。が、海外はそうはいかない。取材の移動日に911が発生し、すべての空港がストップするなど、普通は経験できない。このことからも、この取材が前途多難を予見しているようで興味深い。

空港で足止めをくい、何日も遅れ目的地へ到着する。なんでもない移動のはずが、とんでもない状況へと変化する。作者の行くところにトラブルがつきまとう。この流れというのは、確かに作者のトラブルを呼び込む体質を疑わずにはいられない。

「墜落記」では、セスナ機がアマゾンの奥地で墜落するというとんでもない事故が発生し、巻き込まれた作者が、墜落しその後の病院での出来事まで詳しく描いている。セスナ機が墜落しても、乗員が全員無事というのはどの程度の奇跡なのか。

大きな怪我もなく、入院もせずに済むなんてのは、かなりの奇跡だと思えてくる。ただ、文化の違いか、墜落したあとのいざこざがある。死にかけた作者の怒りからすれば、その怒りがパイロットに向かうのもしょうがないだろう。まして、言葉が通じなければ、相手の態度を見るしかない。

結局は事故がニュースとなり、その後テレビの取材は仕切り直しとなったらしい。一歩間違えれば死という状況でありながら、作者はかなり冷静に事実を分析している。もしかしたら、そんなものなのかもしれない。死の直前になっても「マジ?」というような感想しかもたず、きっと自分だけは大丈夫だろうと心のどこかで思っていたのだろう。

死の淵から生還した人は、その後の人生観が大きく変わるというが、作者はそんなことはないのだろう。若いころからいつ死んでもおかしくないような旅を繰り返した作者だけに、ある程度耐性がついているのだろうか。

飛行機事故はそう簡単に経験できることではない。



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