勉強はそれからだ-象が空を3 


 2014.5.10     試験問題に選ばれるエッセイ 【勉強はそれからだ-象が空を3】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

象が空をシリーズの中では一番好みかもしれない。日常のエッセイに違いはないが、自分の作品についてのエッセイがあり、その作品をすでに読んでいるだけに、より楽しめた。作者がどのようなスタンスで作品を書いたのか。そこにどのような意味があったのか。大学受験の問題に作者のエッセイが選ばれ、自分で解こうとしても解けない。

大多数の人が連想する答えと、作者の真の思いというのは違うのだろう。だとするなら、ほとんどの読者は作者の思いとは違った読み方をしていることになる。意外でもあり衝撃的事実だ。電気が止められたとしても、家に家電がないので、ろうそくだけで生活できたり、銀座のバーにTシャツで飲みに行ったり。大作家風ではないのがまた良い。

■ストーリー

ただの象は空は飛ばないが、四千二百五十七頭の象は空を飛ぶかもしれないのだ…。事実という「旗門」から逸脱しないことを自らに課してノンフィクションを書く。最後の一人になっても住んでいたいとの念を抱いて東京に暮し、熱に浮かされるように旅に暮す。さまざまなフォームで、滑走を試みた十年間の記録。

■感想
エッセイの中には、面白エピソードが多数ある。それも、狙った面白さではなく、作者は真面目に出来事をノンフィクションとして綴っているのだが、面白い。喫茶店で人と待ち合わせをし、約束の時間よりもかなり前にやってきて本を読む。最終的には、待ち合わせの相手が来なければ良いのに、なんて思ってしまう。

正直というか、自分のやりたいことに忠実というか。それでいて、金に執着があるようには思えない。売れっ子作家の日常エッセイであれば、どこかセレブな香りのする文章があるはずが、それらがいっさいない。そこに好感がもてるのだろう。

若くして売れっ子になることへの考え方が描かれたエッセイがある。井上陽水は若くして売れたことをハンデのように考えている。逆に色川武大は、人よりも早く先制点をとれたと考えるべきと言う。普通に考えると、若くして売れるとその先のデメリットばかりを考えてしまう。

何をやるにも制限がつき、全盛期と比較される。が、先制点という考え方は意外だ。何かに悩む人がいたとして、その人を慰める言葉は人それぞれあるにしても、作者を含め、周りにいる人物たちの小粋な言葉には、感銘を受けずにはいられない。

「夢の休日」は、単純な話だが面白い。忙しい時、夢にまでみた休日がある。ハワイで終日本を読み、気が向いたらジョギングし料理をして酒を飲む。ただ、その夢はひとりか、もしくは恋人とふたりという限定条件での話だ。そこに子供がいれば…。

自分もまったく同じようなことを考えていたので、ものすごく共感できた。ただ、子供がいたらいたで、別の夢の休日もあると思い考えたら…。意外なことに、ほぼ日常と変わらない状態を思い浮かべてしまった。普通に子供が学校へ行き、家に帰って食事をする。ただ、日中は仕事ではなくのんびり好きなことをする。自分が恵まれていると初めて気づいた。

何気ないエッセイだが、心に残る何かがある。



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