あなたがいる場所 


 2014.11.8      心にズキズキくる短編集 【あなたがいる場所】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

連作短編集ではないが、路線バスがカギとなっている。雰囲気としては、まるで重松清作品のように、心にわだかまりを持った人々の話がつづられている。理不尽なイジメに苦しむ少年や、娘を失った男の苦悩など、心にひびくものがある。特に、自分の状況とかぶるものは、印象深い。家族の在り方や、人との関係など、これだという答えはない

作中の主人公のとる行動に、自分だったらどうするのか、ということをつい考えてしまう。傷ついた心を癒してくれる短編もあれば、悲しい読後感の作品もある。「クリスマス・プレゼント」などは、息子思いの父親の良い話のように思わせておきながら、最後には、現在の息子の強烈な状況が描かれている。印象的な短編はいくつもある。

■ストーリー

理不尽なイジメに苦しむ少年が出会った、赤く染まる白い鳩。家族の在り方に戸惑う少女を奮い立たせた、一台のピアノ。事故で娘を亡くした父親の苦しみを断ち切らせた、片腕のない男。バスを降りたその街で、人々は傷つき憂えながら、静かに痛みを超える。九つの物語が呼び覚ます、あの日の記憶―。深い孤独の底に一筋の光が差し込む、著者初の短編小説集。

■感想
本作で最も印象深いのは、間違いなく「天使のおやつ」だ。滑り台から落ちて骨折した娘が、家に帰った後に嘔吐し、その後入院することになったのだが…。これは強烈だ。たいしたことないと思われた娘の状況が、日に日に悪くなり、最後には…。

父親とすれば、たいしたことないと思いたい。そして、最悪の結果となった時の後悔は果てしない。思わず自分に置き換えて考え、恐怖を感じてしまった。ひとつの自分の行動が、その後の取り返しのつかない結果へとつながる。子を持つ親ならば、誰もが心苦しくなる作品だ。

「虹の髪」は、毎朝バスで通勤する時、前に座る女性の髪の輝きに見とれる男の話だ。全体的にちょっと心苦しくなる短編が多いなかで、本作は非常にさわやかに感じてしまう。女性の後をつけた時に、痴漢と勘違いされそうな状況にも関わらず、その後同じ状況が続くことの不思議さ。

架空の物語であり、現実にはありえないことだとわかってはいるのだが、妙にウキウキとした気持ちになる。読後感もダントツに良く、辛く苦しい短編を読まされた後だと、なおさらそう感じるのかもしれない。

「クリスマス・プレゼント」は、父親が離れて暮らす息子に対してクリスマスプレゼントとして下着と絵本を送るという物語だ。年老いた父親が、思い出の絵本を探し出し、孫へのプレゼントだと勘違いされる下りなど、ほのぼのとした流れが続いていく。が、プレゼントを贈る相手である息子の詳細がぼやかされながら物語は進んでいく。

もしかしたら、息子はもうこの世にいないのか?と想像したがそうでもない。ラストに父親が送り先として住所を記入するのだが、そこで息子の境遇があきらかとなる。ここへきてのどんでん返しは強烈だ。

作者の印象にはない短編集だ。



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