夜の底は柔らかな幻 下  


 2013.9.17     少年マンガ的ワクワク感 【夜の底は柔らかな幻 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

上巻で感じたワクワク感。超能力に似た能力を持つ在色者同士の戦いはどうなるのか。下巻では強烈な能力を持つ者たちがぶつかり合う。対決シーンではまさにマンガの「AKIRA」をほうふつとさせるようなシーンを頭の中に連想してしまった。物語の鍵を握るはずの謎の子供が、とうとうその能力を明らかにする。

圧倒的力を持つ三人の男たちが山へ向かい、目的をもった実邦が何かを成し遂げようとする。役者はそろった。あとは、これらの登場人物たちの激しいぶつかり合いを楽しむだけだ。まるで少年マンガを読んでいるようなワクワク感がある。それと共に、そこに至るまでにお決まり通り、犠牲になる者たちがいる。ちょっとしたSF映画にもなりそうな題材だ。

■ストーリー

犯罪者や暗殺者たちが集まり、国家権力さえ及ばぬ無法地帯である〈途鎖国〉。特殊能力を持つ〈在色者〉たちがこの地の山深く集うとき、創造と破壊、歓喜と惨劇の幕が切って落とされる

■感想
上巻では、山に集うつわものたちが、どうぶつかるか、ワクワクして読みすすめた。強さのランキングがはっきりしないまま、戦いがスタートする。すべてを凌駕する不思議な力であったり、無垢な子供がしめす強烈な力だったり、SFモノの定番を抑えた流れはすばらしい。

完全な悪役と思われたキャラクターが、だんだんと読者に良い印象を与え始める。すべての鍵を握るはずの”ソク”とはどのような存在なのか。実邦が目的を達成するためにすべてを犠牲にしても前に進むその意志の強さに強烈なインパクトを感じてしまう。

超能力同士の戦いを表現するのは難しい。圧倒的な力を示すためには、犠牲になる存在が必要だ。本作では山に昇ろうとするその他のつわものたちが、あっさりとやられることにより、能力のすごさをアピールしている。上巻から特殊な言葉のオンパレードであり、それは下巻でも変わらない。

上巻ですべて出つくしたかと思いきや、そうではない。水晶筋やほとけなど、特殊能力のさらに上を行く不思議な力が存在し、在色者たちが翻弄されていく。なんでもありな気がするが、やはり少年マンガ的面白さのポイントを押さえている。

ラスト間際は少し宗教色が強くなる。特殊な能力者同士の戦いとなると、精神面の力の差が大きくなる。実邦が目的を達成するためにとった行動。そして、つわものたちの精神が壊れていく様。ラストまでの怒涛の展開は、読者を引きつけて離さない。

ある程度結末が見えてくると、最初のワクワク感は急速にしぼんでしまうが、それでも結末まで読者を引きつけるパワーは弱まることはない。結局”ソク”とは何なのか。それをはっきりと理解することは難しい。それでもSF映画を見ているような、強烈なインパクトがあるのは確かだ。

上巻から続いたワクワク感を下巻も継続している。




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