中原の虹4  


 2011.5.12  中華民国の隠された真実? 【中原の虹4】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

物語の最後にふさわしく、すべてに決着をつけている。ただ、作者の想像力をフル回転させているため、歴史的事実から感じる印象とは若干違ったものになっている。清を滅ぼしたことなっている袁世凱は、悩みに悩んだあげく、決断し、そのことを最後まで後悔している。権力にしがみつく悪者という印象から、国を思う憂国の戦士に様がわりしている。本作では袁世凱が完全なる主役といっていいだろう。張作霖の強烈なキャラクターはなりをひそめ、裏でうごめく怪しげな組織が袁世凱を憤死させたということになっている。かなり想像の範囲が大きいが、こんな物語があったとしてもよいのだろう。すべての登場人物たちは、みな国のことを考えて行動していたということだ。

■ストーリー

新生中華民国に颯爽と現れたカリスマ指導者・宋教仁。しかし暗殺者の手により時代は再び混乱し、戊戌の政変後日本に亡命中の梁文秀の帰国を望む声が高まる。極貧の中で生き別れた最後の宦官・春児と馬賊の雄・春雷はついに再会を果たす。そして龍玉を持つ真の覇者は長城を越える!魂を揺さぶる歴史冒険小説、堂々完結。

■感想
蒼穹の昴から登場した春児は、本作でも重要な役割をはたしている。清から中華民国となり、その後どのような変化をとげるのか。すべての権力をほしいままにした袁世凱がどのような思いで生きていたのか。歴史的事実よりも、作者が考えるキャラクターを重視した作品といっていいだろう。結果だけは歴史どおりだが、その結果にいたるまでにどのような考えがあったのか。カリスマ指導者である宋教仁が暗殺されたのは、袁世凱ではない。そして、袁世凱が憤死した裏には、ある人物が関わっていたなど、荒唐無稽と思われるようなことまで描ききっているのはすばらしい。

本作では間違いなく袁世凱が主役なのだろう。それまで強烈な個性をはなっていた張作霖がなんとなくだが、袁世凱や宋教仁を引き立てるパセリのような役割に感じてしまった。強烈なキャラクターである張作霖が、ほめたたえる人物ということで宋教仁を持ち上げ、袁世凱をそれほど悪者としては描いていない。西太后もそうだったが、あえて世間の評判とは逆をいくような流れに仕向けているのだろう。すべての悪行は、国を思い、外国から自国を守るためにやったことだという流れになっている。

この中国シリーズはまだまだ続くのだろうが、本作だけ読むとあの史上最強の悪女といわれた西太后の印象は良くなり、袁世凱も国を思うすばらしい将軍のように思えてしまう。本作の中では特別悪い人物はおらず、すべてが国を考えての行動となっている。悪くはないが、そうなのかという驚きの方が強い。歴史を多方面から見ることは重要だが、物語としてここまで、言い方は悪いが好き勝手に書ける作者の筆力や胆力はすばらしいのだろう。本作を読むことで中国の歴史には確実に詳しくなることだろう。

壮大な中国の歴史の一端を感じられる物語だ。




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