峠うどん物語 下  


 2012.10.15    まずくてうまいうどん 【峠うどん物語 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

上巻では、火葬場の隣に位置するうどん屋の、避けては通れない宿命のようなものが描かれていた。死をあつかってはいるが、単純なお涙頂戴モノではなく、深く考えさせられる物語だった。本作では、うどん屋の店主であるよっちゃんのおじいさんが頑固なように、物語自体も頑固で、一本スジが通っている。作中でアドバイスする人たちの意見は、常識的でまともなはずだが、それらはすべておじいちゃんには何の意味ももたない。おじいちゃんの頑固さがそのまま物語の頑固さに繋がっている。そして、その頑固さが、なんだか心地良くなってくる。世間の流行に流されることなく、ひたすら自分の道をつき進む頑固なうどん屋。ものすごく魅力的だ。

■ストーリー

五十年前の大水害の翌日、若いうどん職人が路上でふるまったうどんは、まずくて、おいしくて、希望の味がした。空襲から、まだ十数年しかたっていないのに。一面の焼け野原からせっかくみんなでがんばって復興したのに、今度は一面の海になってしまって、やり直し……。それでも、ひとびとはくじけなかった。いま一生懸命に生きているひとたちを、あたたかく、そして力強く包み込む――。

■感想
死の感覚を描いているのは、間違いなく上巻だ。本作では、死をあつかってはいるが、上巻のように若くして亡くなった人が登場するわけでなく、ある意味大往生なのかもしれない。その中で、相変わらず峠うどんの店主は、頑固にうどんを作り続ける。「アメイジング・グレイス」などは、思い出の曲と、昔の仲間の死ということで、涙を誘われるかと思いきや、そうはならない。おじいちゃんの頑固なまでのこだわりと、葬式に出席することだけがお悔やみになるとは限らないという、悟りを開いたような考え方。おじいちゃんの頑固さは、常人では理解できないかっこよさのようなものがある。

「柿八年」などは、まさに強烈な頑固さだ。大水害の翌日、ありあわせのもので作ったうどん。それを現在に再現しようとしたら…。当時の材料そのまま使えば、まずいのは当たり前。それを現代風にアレンジするのは当たり前のことのはずだが…。まずくてうまいのが柿の葉うどんらしい。頑固というかなんというか。まずさを売りにするのではなく、当時のままを売りにしようとする。ファミレスのやり手店長の言葉の方が何倍も的を射ているはずが、これまたおじいちゃんのよくわからない頑固さに押し切られてしまう。

インパクトがあるのは間違いなく上巻の方だ。火葬場の隣のうどん屋としての特徴もでている。下巻では、おじいさんの周辺の話がメインとなり、その頑固さがよりクローズアップされている。強烈なインパクトはない。が、柿の葉うどん絡みの”まずくてうまい”というのが妙に心に残っている。よっちゃんの同級生が、受験を苦に自殺し、そのことにとまどうよっちゃンに対して、おじいちゃんの一点の曇りもないひとことがある。頑固さに裏打ちされた信念がにじみ出ているような言葉だ。

峠うどんと言ううどん屋がもし存在しているのなら、怖いもの見たさで一度かけうどんを食べてみるかもしれない。




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