図書館内乱  


 2012.7.17   激しい主導権争い 【図書館内乱】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

前作のキャラクターに、さらに新キャラを追加し、図書館内部の権力闘争をメインに描く本作。冷静沈着な小牧が、幼馴染の女の子がらみで事件に巻き込まれたり、郁が憧れの王子様の正体に気付いたりと、恋愛色の強い物語となっている。耳の不自由な女の子のエピソードは「レインツリーの国」ですでに予習済みだったので、それほどインパクトはない。すでにできあがったキャラクターたちの細かいキャラ設定の上に、今回の濃密なエピソードが続いてくる。手塚の兄という何かしら大きな影響力のあるキャラの存在により、タイトルどおり内乱の雰囲気が強くなる。恋愛の要素よりも、図書館内部の主導権争いの色がより濃い本作。軍隊好きにはたまらないかもしれない。

■ストーリー

図書隊の中でも最も危険な任務を負う防衛隊員として、日々訓練に励む郁は、中澤毬江という耳の不自由な女の子と出会う。毬江は小さいころから面倒を見てもらっていた図書隊の教官・小牧に、密かな想いを寄せていた。そんな時、検閲機関である良化隊が、郁が勤務する図書館を襲撃、いわれのない罪で小牧を連行していく―かくして郁と図書隊の小牧奪還作戦が発動した!?

■感想
小牧と毬江のエピソードは、レインツリーの国を思い出させるには十分の内容だ。耳が不自由であるだけに、様々な行動が制限される。そこに、恋愛が絡むとさらにややこしいことになる。小牧の、冷静でありながら自分の恋愛となると暴走気味になる性格。本作のキャラクターたちの中には、常に自分の性格を冷静に分析し、なおかつ良い部分と悪い部分をはっきりと理解しながら思考する場面が多い。相手のことを思いすぎた結果、相手の思いを踏みにじることになる。そこまで恋愛に対して深く考えたことがないので、本作のキャラクターたちには、常に驚かされてしまう。

原則派と行政派。図書館内部の二つの派閥。軍隊での覇権争いというのは、定番かもしれない。本作では、権力争いに巻き込まれる郁の存在がある。そこで登場する超エリートである手塚の兄。この新キャラクターの登場により、何かしら暗躍の香りが漂ってくる。内乱というタイトルどおり、手塚兄が何かしら行動を起こすかと思いきや、本作でははっきりとした兆候は見せていない。本作の主要キャラである堂上や小牧や玄田と、手塚兄の対決は楽しみでもある。能力が高いエリートの手塚兄がどういう立ち回りをするかがこのシリーズの面白さの肝かもしれない。

前作では気付くことがない郁の幻の王子様。本作ではとうとう、郁がその正体に気付くことになる。このことにより、物語がどうなっていくのか。今までどおり、口の悪い上官として堂上を扱うのか、それとも憧れの王子様と認識し、よりギクシャクしだすのか。恋愛要素を強くするのであれば、郁の不自然な行動を描き、より痒くなるような甘く切なく、そして笑える恋愛エピソードを続けてくることだろう。図書館内部の争いと、隊員たちの恋愛という二大要素が、今後さらにパワーアップしていきそうだ。

王子様の存在に気付くには、あまりに絶妙すぎるタイミングだ。




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