レインツリーの国  


 2012.3.17   メールきっかけの恋愛 【レインツリーの国】

                      評価:3
■ヒトコト感想
メールをきっかけとして恋愛に発展する物語はいくつか読んだことがある。石田衣良の「リバース」は例外かもしれないが、本作はわりとオーソドックスだ。ただ、そこには単純な恋愛模様だけでなく、裏に隠された彼女の秘密というのが大きな鍵となる。彼女が会いたくないとかたくなに拒否する理由が判明したあとは、なんだか気分がモヤモヤしたり、イライラしたりと登場人物の男と同じ心境になってしまう。そして、自分だったら、と考えてしまう。普通の男はなかなか本作の主人公のような行動はとれないだろう。大きな困難が目の前に立ちふさがり、それを乗り越えたとき、読んでいるこっちが恥ずかしくなりそうな、あまーい言葉が連発される。感情移入できれば、萌えるだろう。

■ストーリー

きっかけは「忘れられない本」。そこから始まったメールの交換。共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内時間は流れが速い。僕は、あっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女には、そう主張せざるを得ない、ある理由があった―。

■感想
メールから始まる恋。なんてのは、よくあるパターンだろう。本作もその王道パターンを踏襲しているが、出合ってからが一味違う。彼女の方には、出会いをしぶる理由があり、その理由のために男はのちのち苦労することになる。はっきりいえば、こんな状況は普通にありえることだろう。ただ、思いもよらないことなので、実際にこの彼女と付き合うと、さまざまな問題にぶち当たるのだなぁと容易に想像できる。普通ならば、避けたいところだが、本作の主人公の熱い気持ちは、どんな困難であっても決してくじけることなく前にすすんでいる。

恋愛であれば、お互い衝突することがある。それは普通の男女であれば当たり前のことだが、本作ではさらにやっかいな問題がある。健康な人では決して気付くことのない問題であり、それを題材とし、なおかつデリケートな部分にまで踏み込んでいるのが本作のすごいところだ。もしかしたら、どこぞの団体から抗議が殺到するかもしれない。何も知らない人が勝手なことばかり書くな、なんて誹謗中傷があるかもしれない。作者はそれらを覚悟しながら、なおかつ誤解されぬよう神経を使って本作を描いているような気がした。

彼女のわがままなのかなんなのか、何かにつけてつっかかる場面がある。普通ならば、あまりのめんどくささに嫌気がさすだろう。本作の主人公は、どんなにイラつくような状況であっても、相手への愛の深さのなせる業なのだろうか、すべてを受け入れている。心の中では怒りや、投げやりな気分になろうとも、辛抱強く相手を懐柔しようとする。この我慢強さには驚かされる。こんな男がこの世に存在するのだろうか。どんな困難な壁にぶち当たろうとも、それを二人で乗り越えていく。その先には、恥ずかしくなるような青春菌を撒き散らす言葉の数々がまっている。

単純な恋愛小説ではない。忘れていた世の中の広さを認識させるような作品だ。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp