図書館戦争  


 2012.6.29   作者得意の軍隊恋愛モノ 【図書館戦争】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

図書館が戦場となる。行き過ぎた検閲から本を守るための戦い。物語は、作者得意の自衛隊モノと体が痒くなるような恋愛要素がある。図書特殊部隊という軍隊の仕組みを使い、男所帯の中での恋愛を描かせると、作者に敵うものはいないだろう。不器用に軍隊の生活をこなす男勝りな郁と、郁の上官である堅物の堂上。まだお互いの恋愛感情に気付いていない状態で、ゴタゴタが巻き起こる。基本は軍隊モノながら、血生臭い描写はあまりない。図書館=戦場というのがイマイチしっくりこないが、読んでいくうちにすぐに慣れた。死が目の前に迫っているほどではないにせよ、気を抜けば死ぬ環境で、不器用な恋愛をこなす図書館隊員たちの物語だ。

■ストーリー

2019年(正化31年)。公序良俗を乱す表現を取り締まる『メディア良化法』が成立して30年。高校時代に出会った、図書隊員を名乗る“王子様”の姿を追い求め、行き過ぎた検閲から本を守るための組織・図書隊に入隊した、一人の女の子がいた。名は笠原郁。不器用ながらも、愚直に頑張るその情熱が認められ、エリート部隊・図書特殊部隊に配属されることになったが…!?

■感想
郁が図書隊に入隊した動機というのが、いかにも夢見る少女的だ。そして、それを冷やかす同期たち。さらには、郁の同期に優等生である手塚が存在し、何かにつけて郁につっかかる。上官たちは、超堅物で、郁よりも背が低い堂上や冷静沈着な小牧などキャラクターとしては申し分ない。軍隊の厳しさと図書隊という特殊な状況の説明にページ数を割いてはいるが、基本は恋愛物語だ。軍隊と、思わず顔がニヤリとほころぶような恋愛を書かせたら、作者の右にでるものはいないだろう。

軍隊でありながら、郁がまだ新人ということもあり、あまり激しい戦闘はない。そのため、シリアスな雰囲気はない。軍隊での恋愛というのは、死亡フラグなどの恋愛要素を盛り上げる仕組みがあるが、本作に限ってはそれがない。多少、堂上が部下である郁に対して思うことが、何かしらのフラグにはなっているが、結末が裏切ることはない。全体的に、軍隊としての緊張感は若干薄い。恋愛に重点をおいているのでそうなるだろうが、「塩の街」のような言いようのない悲しさはなく、明るい雰囲気の作品だ。

シリーズとして郁と堂上の恋愛は変化していくのだろう。お互いがまだ意識しない段階でありながら、すでに読みながらニヤケ顔になりそうな要素がある。郁が夢見た王子様がどうなったのかは、本作でしっかり描かれているのが驚いた。運命の王子様対堂上という郁を取り合う対決があるかと思いきや、意外な展開だ。表現の自由や、図書特殊部隊としての激しい戦いが今後増えていくのかもしれないが、それでも、甘く切なく、そして体中が痒くなりそうな恋愛はパワーアップするのだろう。

図書館を舞台にした軍隊モノという異色作でありながら、違和感なく物語りに入りこめた。




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