チヨ子  


 2011.11.21  強烈なインパクトの聖痕 【チヨ子】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ミステリーというよりホラー要素の強い短編集。冒頭から明らかに霊的なものを題材としたとわかる作品や、ミステリー風でいかにも霊的な現象にトリックがありそうに思わせて、現実的な答えをだすと思いきや、そのまま霊的なオチとなるなど、ファンタジーな雰囲気が強い短編集だ。ひとつのアイデアをそのまま作品にしたようなものもあれば、作者の「名もなき毒」と同じようなキャラ構成で、ミステリー風にすすめるものまで、バラエティに富んでいる。そんな中でも表題作である「チヨ子」と「聖痕」は強烈なインパクトがある。チヨ子は頭の中に想像する映像の面白さや、自分の子ども時代をシミジミ思い出してしまう感覚がある。聖痕はインパクトが強すぎて、へたしたら他の作品の印象がすべて吹き飛んでしまうほどだ。

■ストーリー

五年前に使われたきりであちこち古びてしまったピンクのウサギの着ぐるみ。大学生の「わたし」がアルバイトでそれをかぶって中から外を覗くと、周囲の人はぬいぐるみやロボットに変わり―(「チヨ子」)。表題作を含め、超常現象を題材にした珠玉のホラー&ファンタジー五編を収録。

■感想
ホラー要素の強い短編集。表題作である「チヨ子」は思わず微笑みが漏れるような作品だ。奇妙でファンタジー的なことには変わりないが、ピンクのウサギの着ぐるみを着て歩く姿というのを思い浮かべると、なんだか笑えてきた。幼いころとても大事にしていたもの。誰もが大人になると忘れてしまう、子ども時代の大切な思いを、知らず知らずのうちに思いだしていた。周囲の人たちがぬいぐるみやロボットに変わるというのもインパクトがあるが、微笑ましさの方が強い。こんな着ぐるみがあれば、かぶってみて、鏡の前に立ってみたい。

「いしまくら」は作者の「名もなき毒」と似たようなキャラ設定だったので、その作品の元ネタとなった設定なのだろうか。平凡な男の娘が、不可思議な霊現象を調査する。その霊現象について細かく分析するのではなく、そんな噂が起きた原因を探るという物語だ。因果応報とそこまで繋がりがあるとは思えないが、サラリとしたミステリー的なオチもある。作中での、事件の被害者に対する悪意ある噂の発生理由については、妙に納得してしまった。現代的でもあり、恐ろしい時代だと感じずにはいられない。

「聖痕」はとんでもないインパクトがある。現実の事件を彷彿とさせる内容であり、さらにはネット上にあらわれた奇妙なサイトと、そこで預言者のように呟く者たち。超常現象的なものをにおわせつつ、主人公である調査会社の女が、真実を暴こうとする。流れ的には、アングラなサイトは面白おかしくふざけただけで、真実は別のところにあると科学的な理由が示されるものと思っていた。それが、巧みな伏線と、物語全体の奇妙な流れから、いつのまにかすべてが超常現象として結論づけられている。意外な流れではあるが、引き込まれてしまう。ネット社会の恐怖を垣間見た気がした。

ミステリーとしてではなく、ファンタジーホラーとして楽しむべき作品だ。




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