2012.4.24 事なかれ主義の官僚たち 【天使の報酬】
評価:3
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■ヒトコト感想
外交官黒田シリーズの第二弾。先に第三弾であるアンダルシアを読んでしまったが、ほとんど影響はない。今回は外交官として海外の猛者たちと対決するというよりも、国内の警察組織との縄張り争いといった感じだろうか。海外で消えた女子大生の行方を追ううちに、得体の知れない巨大な陰謀の影に気づく黒田。相変わらず、無鉄砲というか破天荒とういか、「外交官がそこまでするか?」と思うのはこのシリーズの特徴だろう。警察としての権力はないが、外交官としてのメリットがある。黒田のアグレッシブさが、逆にしつこくも感じてしまうが、それもすでにキャラクターとして定着している。謎のテロリストや、次々と関係者が死んでいる現象には、思わず引きこまれてしまう。
■ストーリー
サンフランシスコで日本人女子大生が姿を消した。その背後にうごめくテロリストを追い、外交官・黒田康作は日本へ帰国する。待ち受けていたのは、消えた女子大生と接点を持つフリー記者の殺害だった。謎の留学生。ある研究施設の襲撃。爆破…。続発する事件がひとつにつながった時、驚くべき真相が見えはじめ、黒田に危機が迫る。
■感想
今回はサンフランシスコからスタートする本作。黒田が、外交官というよりも、刑事のようにアグレッシブに動き回る。行方不明となった女子大生を探しだす過程で、テロリストの影や、元厚生労働省の官僚、はてはアメリカの副大統領まで、どこまで大物が絡んでくるのか、先がみえない展開となっている。物語がすすむにつれて、事件がみえてくる。そこには、エボラ出血熱などの細菌が絡んでいたり、死んだはずの者が実は生きていたりと、今までになくきな臭い物語となっている。
裏でうごめく組織なり人物が巨大であればあるほど、不気味さが増すことになる。何をやるにも先回りされ、姿は見えないが、巨大な権力を感じさせる黒幕の存在。今回の黒田の相手は、姿がはっきりと見えないだけでなく、身内の中に裏切り者がいるのでは?と思わせる恐怖がある。警察組織の縄張り意識のため、黒田がふり回されるが、そこは外交官として都合の良い行動をとる。本作全体の印象としては、まるで横山秀夫作品のように、警察の暗部や巨大組織の事なかれ主義を思いおこさずにはいられない。
黒田がなぜそこまで事件解決に熱くなるのか。このシリーズ、いや、作者の作品すべてに言えることかもしれないが、主人公が事件解決へ向ける執念というのがすさまじい。ひとりの関係者が判明すると、その関係者の過去までさかのぼり、わずかな関係しかない者にも、しつこく話を聞く。事件の整合性や、理論立てた解決にしたいからだろうか。あまりに細かく攻め込む黒田に、いつものことながら圧倒されてしまう。つい事情聴取される者たちの気持ちとなり、なんでそこまで?という思いは常にもったまま読みすすめた。
シリーズとしては、外交官とういより組織内部の綱引きをメインに描いたような作品だ。
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