パラドックス13  


 2011.5.9  人が消えた大都市でのサバイバル 【パラドックス13】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

論理数学的に予測不可能な現象が起こる。13時13分に何かが起こると言われ、その何かがわからない。そして、実際にその時…。作者の作品の中では毛色が違った作品だが、冒険SFモノ的な流れには、思わずひきこまれてしまう。人が存在しない東京でどのようにして生きていくのか。コンビニなどにあふれる食料で十分生きていけるかと思いきや、そこには大きな落とし穴がある。高度に近代化された世界では、少数の人間だけでは生きていくことができない。自分だったらどうやって生き残るかを、常に考えながら読んでしまう。今、この瞬間、すべての人が消え去ったとしたら。思いもよらない部分の影響に驚き、どういった結末になるのか、ページをめくる手を止めることができない。

■ストーリー

13時13分からの13秒間、地球は“P‐13現象”に襲われるという。何が起こるか、論理数学的に予測不可能。その瞬間―目前に想像を絶する過酷な世界が出現した。なぜ我々だけがここにいるのか。生き延びるにはどうしたらいいのか。いまこの世界の数学的矛盾を読み解かなければならない。

■感想
予測不可能な出来事が起きたとき、この世界に取り残された人々はどうやって生き延びるのか。作者の作品らしくないモノだが、とんでもなくひきつけられる。ありえない現象なのかもしれないが、人がいなくなった都市で生き残るにはどうすればよいのか。人の存在がないと、近代化された都市ではどのような不都合が生じるのか。作者の想像力と、物語の構成力に驚かされてしまう。単純に考えれば、ホテルやコンビニなどで衣食住には困らないはずだ。それが、様々な要因から、そう簡単にはいかない。長期的な視点でいくと、どのように行動すべきかも作中で議論されている。

誰もいない都市というのは想像できない。ありきたりなSFのような流れではない。現実的な考えを持つ人物が、理路整然と生き残り策を考え、この先生き続けるためのアイデアを披露する。それは倫理的にもモラル的にも受け入れられるものではないが、作中では極限状態における人々の考えが浮かび上がっている。人はどういった時に生きる希望を見出すのか。誰もいない世界で生きる意味があるのか。パラドックス13という現象によって、人間が生きる意味を問われているような気さえしてきた。

人の存在しない東京で、生き残るためのサバイバル生活。無人島ではなくジャングルでもない。コンクリートに囲まれた世界であっても、生き残るのは難しい。まさか、この手の物語になるとは思わなかったので、予想外に惹きつけられた。ミステリとして不可解な殺人事件が起きるのではなく、密室トリックがあるわけでもない。東京がありえない世界となり、そこで長期的に生き残るためにはどうすれば良いのか。苦悩する登場人物たちに感情移入し、自分だったらどうするかを常に考えながら読んでしまう。冒険モノとしてのワクワクドキドキ感も持ち合わせている。

作者の作品らしくはないが、惹きつけられるパワーがある。




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