シャドウ  


 2011.2.2  作者の策略にはまった 【シャドウ】

                      評価:3
道尾秀介ランキング

■ヒトコト感想

いかにもミステリー的な事件や事故が発生するわけではない。普通に生活する親子の周辺で不幸が発生し、それをきっかけとして何かおかしなことが起こる。予想通り作者の策略にはまってしまった。作者の作品は必ず何か大きな驚きが待っているだろうと身構えていたが、それを超える出来事だった。中盤までは読者に対して意図的にある予想をさせる。「ああ、この人がすべての元凶なのだなぁ」と感じながら読み進めていくと、終盤で別の答えが示される。心地良いどんでん返しだが、物語として、小学生が主人公にしてはかなり強烈な内容かもしれない。ラストはかろうじて救いのある終わり方だが、そこにいたるまではあまりに辛すぎて、読んでいて苦しくなってきた。

■ストーリー

人は、死んだらどうなるの?―いなくなって、それだけなの―。その会話から三年後、凰介の母は病死した。父と二人だけの生活が始まって数日後、幼馴染みの母親が自殺したのを皮切りに、次々と不幸が…。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?

■感想
印象的な言葉がある。「愛するの反意語は無関心だ」という言葉だ。物語りに大きな影響を与える言葉ではなく、ストーリーに沿った言葉でもないが、妙に心に残っている。作中の登場人物たちは基本的に不幸な境遇なので、明るく楽しい作品とはならない。精神的な病に犯された者たちの物語といえるのかもしれないが、様々な要素が含まれている。親子関係や夫婦関係、思い込みによるバイアスと、精神を病んだ人は罪を問われないということ。すべてが絡み合い、しっかりとまとまっている。

主人公は凰介なのだろう。いろいろな登場人物たちの目線で語られる本作。謎をうまくごまかしつつ、物語を進めている。中盤まではすべての元凶はある人物なのだなぁという流れとなる。かすかに漂ってくる異常な雰囲気と、不幸な出来事を裏で操っているような片鱗。それらによって読者を一定方向に向かせておいて、真実は別の部分にあると暴露する。この手法はすばらしい。予想外の結末といっていいだろう。ただ、真の黒幕とも言える人物が、すべての元凶だという伏線をほとんど感じることができなかったので、無理矢理な印象はぬぐいきれない。

小学生が主人公にしては、かなりダークな内容だ。親子関係の不仲を描きながら、物語を嫌な方向へと進めている。読んでいて辛くなるような場面もあるが、ラストにはすべてが丸くおさまっているので、そのあたりは良いのかもしれない。驚きでいえば向日葵の咲かない夏片目の猿には負けるかもしれない。ただ、ストーリー全体として、人によって好き嫌いはあるのかもしれないが、しっかりとまとまっており、よくできていると感じた。細かなこじつけトリックもあるが、すべての伏線を苦労して回収しているのがよくわかる部分だ。

作者の几帳面さがうかがえる作品だ。




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