向日葵の咲かない夏 道尾秀介


2010.8.6  へんな小説の答えはラストに 【向日葵の咲かない夏】

                     
■ヒトコト感想
しばらく読み進めていると”へんな小説だなぁ”という感想を持つ。三歳の妹が饒舌に会話し、同級生のS君が蜘蛛として生まれ変わる。超能力を使う謎のおばあさんや、少し変わったお母さんまで。ミステリーとしては、あまりに現実離れしすぎているような気がした。中盤までその流れで進んでいたが、結末間近になりその理由がわかった。しっかりと意味のあることだった。S君の遺体を探し出す物語のはずが、いつのまにか複雑に絡み合うミステリーとなっている。登場人物たちの本心が何なのか、言葉の意味は?この手のパターンは最後にどれだけ驚けるかどうか…。または、中盤までの奇妙な物語についてこれるかどうか、それらにすべてがかかていると言っても過言ではないだろう。

■ストーリー

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。

■感想
生まれ変わりか当たり前のように語られる世界。遺体が行方不明となったその本人が蜘蛛に生まれ変わり、ミチオと一緒に遺体を探し出そうとする。なんだかずいぶんとヘンテコな感じがするが、それがまかり通る世界となっている。三歳になったばかりの妹が饒舌に兄のミチオとS君について語る。その推理は大人顔負けの鋭い突っ込みあり、客観的な視点ありで三歳児とは思えない。犬や猫が殺されるという謎の事件も発生し、事態はホラーを思わせるような流れとなる。この不可思議な流れをすんなりと受け入れることができるか、それが最初のハードルかもしれない。

ミチオの家族関係や教師など、少しおかしな人物が多数登場する本作。このまま生まれ変わりが当たり前の世界で、ミチオが謎を解き明かすのかと思いきや、ラストには今までの不可思議な出来事の理由がはっきりと説明されている。このタイプのオチだとは思わなかった。そして、しっかりと理由が説明されるとも思わなかった。変な人物やおかしな現象にはすべて理由がある。ミチオ目線で語られていることがすべての鍵となっている。もし、すべての理由が説明されないまま終わっていたとしたら、”なんだこりゃ”という感想で一杯になっていたことだろう。

S君の遺体が消えたという事件のミステリー的なトリックよりも、ミチオ周辺の出来事の理由の方が衝撃が大きい。おそらくS君絡みの話はただのオマケにすぎない。作者は最初からミチオ周辺に起きる出来事をメインとして考えていたのだろう。オカルト的な終わり方ではなく、ラストもしっかりと余韻を残している。人によってはこのタイプの作品を”ずるい”と感じるかもしれない。ただ、ラスト間近となり、少しづつ真実が明らかとなっていく間、すべての疑問が解けていくあの快感はなかなか味わえるものではないだろう。

中盤までの不可思議な世界は、なかなか受け入れ難いが最後まで我慢して読んでもらいたい作品だ。




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