片目の猿 道尾秀介


2010.12.11  まんまとだまされた 【片目の猿】

                     
■ヒトコト感想
特殊能力をもった私立探偵が奇妙な事件に立ち向かう。個性的なアパートの住人たちの助けを借りながら、特殊能力を持った仲間と事件を解決する。なんてストーリーかと思っていた。終盤まで、まさにそのままありきたりな流れで終わるかと思っていたが、最後に大きな秘密が明かされる。はっきりいえば、序盤から中盤にかけてはどうということはない。どこにでもある軽い感じの平凡なミステリーという印象だった。それが、最後に大きな驚きが待っている。意味不明な言動や、なんのための説明なのか、いまいち要領を得なかったことにはすべて意味があったのだ。すべてを読んだあと、振り返ってみると意味がわかってくる。この手の仕掛けはさすがとしかいいようがない。

■ストーリー

俺は私立探偵。ちょっとした特技のため、この業界では有名人だ。その秘密は追々分かってくるだろうが、「音」に関することだ、とだけ言っておこう。今はある産業スパイについての仕事をしている。地味だが報酬が破格なのだ。楽勝な仕事だったはずが―。気付けば俺は、とんでもない現場を「目撃」してしまっていた。

■感想
パターン的には作者の向日葵の咲かない夏と同じだろう。なんてことない特殊能力を持った探偵が大活躍するという話かと思っていた。小粋な会話と、信じられないような特殊能力で、ちょっとしたウンチクまで含まれており、どことなく伊坂幸太郎作品のように感じられた。ただ特殊能力を駆使して事件を解決するだけならば、たいして面白くない。別に特殊能力がなくても問題ないのではないかとすら思ってしまう。風変わりなアパートの住人たちと共に、事件を解決へ導く。まぁ、面白いがそこまで熱中するほどのものではないという印象だった。

しかし、最後に大きなタネ明かしが待っていた。探偵にとって都合の良すぎる特殊能力の理由や、同じような特殊能力を持った仲間の意味。そして、アパートに住む奇妙な仲間たちの真実。すべてに驚いてしまった。ある程度どんでん返しがあると思っていたが、それは事件についてかと思っていた。まさか、この手のパターンとは思わなかった。よく考えれば不自然な描写や、あえて読者を特殊能力の方向へと導くような文章など、すべてが計算されつくしている。アパートの住人たちの行動にもすべて意味があったのだ。

タネ明かしされると、すっきりとした驚きと振り返る楽しみがある。あの言動や、あの伏線にはこんな意味があったのだ。伊坂幸太郎風な奇妙さに慣れていただけに、特殊能力についてはなんら疑うことなく信じきっていた。よく考えればおかしな部分はある。多少強引すぎる部分や、トランプのくだりなど複雑すぎる謎と強引なこじつけにはちょっとやりすぎ感はあるが、それでもメインの仕掛けの驚きに、すべてが吹き飛んでしまう。まぁ、好みの問題だろうが、この手の作品をずるいと思い、受け入れない人もいるだろう。

驚きでいえば、向日葵の咲かない夏を越えることはないが十分驚かされた。




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