前巷説百物語  


 2012.3.16   強い暗黒面 【前巷説百物語】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

巷説百物語の前の世界。又市がどのようにして裏の世界に入り込んできたのか。若き又市たちが大活躍する本作なのだが、今までのシリーズと比べても暗黒面が強い。単純に妖怪にみたてた怪異がおこり、それを又市たちの仕掛けにより解決するという話ではない。ミステリー色が強く、姿形のみえない巨大な悪と相対する又市たち。今までになく深刻というか、生きるか死ぬか、それ以上の困難がまちうけている。玄人の殺し屋グループが登場したりと、舞台はきなくさい。それでも、又市たちの仕掛けにより巨大な悪の陰謀は打ち砕かれる。シリーズの中では最もシリアスな作品かもしれない。損を引き受ける損料屋というのも面白く、様々な損を受ける又市たちの活躍を描くその構成もすばらしい。

■ストーリー

理由あって上方から江戸へ流れてきた双六売りの又市は、根岸の損料屋「ゑんま屋」の手伝いをすることに。この店はれっきとした貸物業、しかし裏では、決して埋まらぬ大損を大金と引き替えに仕掛けであがなう…という稼業を営んでいた。渡世仲間らと共に、若き又市が江戸に仕掛ける妖怪からくりの数々。だがついに、とてつもない強敵が又市らの前に立ちふさがる。やるせなさが胸を打つシリーズ第4弾、百物語はじまりの物語。

■感想
短編の特徴として、損料屋へ依頼があり、その根本原因を探りつつ、又市たちがなんらかの仕掛けをする。その結果は、同心である志方と手下の岡っ引きである万三によって明らかとなる。事件の後日談的な話となり、そこから又市たちがどんな仕掛けをしたかは、おぼろげにしかわからない。その後、又市たちの会話により、とんでもない仕掛けが暴露される。この構成の妙により、現実的な仕掛けをイメージしながら、怪異としか思えない解決方法が示されている。中には非現実的と思われる仕掛けもあるが、それはご愛嬌だろう。

印象深いのは後半の作品だ。このシリーズはひとつの短編に妖怪にまつわる出来事が起こるのだが、後半は妖怪よりも、連作としての面白さがある。ひとつの強烈な悪と、そこから発生する奇妙な出来事。特に黒い絵馬に名前を書くだけで、対象が死ぬという、まるで現代で言うところのデスノート的なものだ。その仕組みであっても、非論理的ではなく、しっかりとした答えが示されている。裏にうごめく巨大な悪の影を感じながら、どのようにして民衆の恐怖をとりのぞくのか。それはすべて又市たちの仕掛けにかかっている。

連作短編として、姿がはっきりとはみえない巨大な悪と戦うというのはワクワクする。又市の仲間たちが次々と犠牲となり、巨大な悪の力をまざまざと思いしらされる。そうなってくると、「巷説百物語」に繋がるということは抜きにして、どのような流れになるのかが気になって仕方がない。又市たちの仕掛けの妙と、そこに付け入ろうとする裏のものたち。又市の仲間で強烈な個性を放つキャラもある。それらが、本作限定というのはものすごく惜しい。圧倒的な強さをほこる山崎などは、外伝として登場しても良いような気がした。

巷説百物語の前の時期ではあるが、確実に巷説百物語を超えた面白さがある。




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