最愛  


 2011.11.8  姉の過去を探る物語 【最愛】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

18年ぶりに姉の消息がわかった時、姉は病院で意識不明の重体となっていた。五郎はなぜ姉の千賀子がそんな状態になったのかを探ろうとする。千賀子の過去をさかのぼり、事件の詳細や、千賀子が人知れず結婚していたという事実から、しだいにおぼろげな真実が明らかとなっていく。この手の、過去の秘密を探る物語は、作者の得意分野なのだろう。過去にはいくつか名作もある。本作は流れ的には、タイトルの”最愛”というより、禁断の愛と強引な調査という印象しかない。素人が人の過去を調べようとすると、どうしても強引さばかりが印象に残る。本作も、あまりに都合の良い展開と、偶然にたよった調査方法に少しテンションが下がってしまう。

■ストーリー

小児科医の押村悟郎のもとに、刑事から電話が入った。18年間、音信不通だった姉・千賀子が銃弾を受け、意識不明で病院に搬送されたというのだ。しかもそれは、千賀子がかつて殺人を犯したことのある男との婚姻届を出した翌日の出来事だった。姉は一体何をしていたのか―。悟郎は千賀子の足跡を追い始める。

■感想
隠された秘密を暴く系の作品は、作者の得意分野なのだろう。過去には「奇跡の人」など、読み始めたら止まらない名作もある。それらの作品と本作の決定的な違いは、事件に対しての魅力がなく、暴くべき秘密にそこまでの不可解さがないことだ。いったいなぜこんなことが起きたのか?という疑問を解き明かすのだが、疑問自体が湧いてこない場合は、秘密を暴く過程も、なんだかテンションが下がってしまう。街金の事務所にガソリンを持って乗り込んだという、過激な出来事の秘密を探るというよりも、千賀子の過去をさかのぼるといった意味合いの方が強い。

不幸な生い立ちと、千賀子の勝気な性格。五郎の現在の恵まれた境遇と対比するように、千賀子の過去は悲しく寂しいものという印象づけをしている。勝気で曲がったことが大嫌いな性格の千賀子が、事件を起こしたということに、そこまで疑問を感じなかった。ただ、ポイントとしては、千賀子が行動を起こした動機を探るということに力が注がれている。五郎の調査方法は、作者の作品に多く見られるような、とんでもなく強引な手法だ。見ず知らずの相手に電話をし、強引に押しかけ話を聞く。この部分は、何回読んでも違和感をもたずにはいられない。

ラストには千賀子の動機と、隠されたとんでもない真実が突然あらわれてくる。読者は、意外な流れに驚くことだろう。このあたりはタイトルと関連しているのだろうが、突然の路線変更のように思えた。最初からこの重大な秘密を鍵とするつもりだったのだろうか。千賀子の性格的なものを考えると、大きくイメージとはかけ離れたことだ。”最愛”というタイトルは、不幸を一身に集めたような姉に対する弟の思いなのだろう。ミステリー的な要素よりも、物語の急展開に驚いてしまう。

過去探しの結末は、意外なオチとなった。




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