2012.6.12 想像よりもまろやかな終り 【ポリティコン 下】
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻では、あきらかに暗黒へ向かう唯腕村の姿が描かれていた。それが下巻となり、どのような結末を迎えるかと思いきや…。予想外に唯腕村は変わっていく。東一という独裁者の存在と、唯腕村がどのように変化していくのかがポイントかと思いきや、主役はいつの間にかマヤに移り変わっていく。作者の作風では、主役級は不幸の道を突き進む傾向にある。そのため、主役が東一からマヤに変わった段階で、いつの間にか、唯腕村が再生していく。このあたり、上巻の流れからは想像できない流れのため、混乱するかもしれない。下巻は唯腕村よりも、むしろマヤとその母親に焦点が当てられている。少女が大人となり、様々な経験を経た行く末としては、やはり不幸な結末かもしれない。
■ストーリー
唯腕村理事長となった東一は、村を立て直すために怪しげな男からカネを借りて新ビジネスを始める。しかし、村人の理解は得られず、東一の孤独は深まる一方だった。女に逃げ場を求める東一は、大学進学の費用提供を条件に高校生のマヤと愛人契約を結んでしまう。金銭でつながった二人だが、東一の心の渇きは一層激しくなり、思いがけない行為で関係を断ち切る。それから10年、横浜の野毛で暮らしていたマヤのもとに、父親代わりだった北田が危篤状態だという連絡が入る。帰郷したマヤは、農業ビジネスマンとして成功した東一と運命の再会をした。満たされぬ二つの魂に待ち受けるのは、破滅か、新天地か。
■感想
上巻までの東一の苦悩というのは、下巻の前半にはしっかりと引き継がれている。このまま唯腕村は崩壊へと進んでいくかと思いきや、若い入村者の存在や、東一とマヤの関係が崩壊したことで、唯腕村は新たなステージへと進んでいく。共産主義的だとか、現代日本の行く末だと感じた上巻の雰囲気からすると、やけにあっさりと再生した唯腕村に戸惑いはある。新理事長として権力をふるう東一に対しても、それほどうまくいくとは思えない流れだっただけに、違和感がある。それらはすべて、マヤが主役となり、マヤ目線での出来事のため、そう感じるのかもしれない。
東一から逃げ出し、唯腕村との関係を断ち切ったマヤ。そこから10年の月日が流れ、唯腕村に戻ることになる。このあたりは、マヤが主役となり、マヤが不幸の道を突き進みながら、唯腕村の状況が変化していくのを、部外者として眺めるだけ。このあたり、唯腕村の内部を描くというよりも、外部からその表面上の成功だけを描くことで、違和感を薄めている。マヤのいない10年の間、何があって東一はどう変わっていったのかは、いっさい描かれていない。
物語として、唯腕村と東一の結末は描かれている。上巻の雰囲気からすれば、思っていたほど不幸な結末ではない。かといって、ハッピーエンドでもない。高齢化社会である現代の日本の行く末を描いていると感じていたが、結末はなんだかあやふやなままだ。脱北者やユートピア思想など、難解なものをテーマとして掲げてはいるが、思っていたよりも、深い描かれ方はしていない。全体的に暗く陰鬱な物語であることは間違いなく、上巻から引き続き、先が気になる流れというのは、読者を引きつけて離さない力がある。
上巻の流れからは、この下巻は想像できなかった。
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