ペンギン・ハイウェイ  


 2012.11.24    SF風?な冒険物語 【ペンギン・ハイウェイ】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

小学生の冒険小説とでも言うのか、それともSFなのか、不条理小説なのか…。振り分けが非常に難しい作品だ。コーラの缶をペンギンに変えるお姉さん。秘密の草原に突然現れた謎の「海」という物体。本が好きでなんでも論理的に話すアオヤマ少年が、不思議な経験をする。作者独特の語り口はいつものとおり。ただ、モテないことを僻む偏屈な青年というキャラクターは、今回は登場しない。今までの作品のイメージからすると、随分とソフトな物語だ。だからといって、一般受けするかというと微妙だ。突然異次元へ飛ばされたり、不思議な現象についての説明はない。作中のキャラクターが、論理的に思考することが説明としてあるだけだ。好き嫌いがはっきり分かれる作品だろう。

■ストーリー

小学四年生のぼくが住む郊外の町に突然ペンギンたちが現れた。この事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした。未知と出会うことの驚きに満ちた長編小説。

■感想
作者の代表作である「夜は短し歩けよ乙女」や「太陽の塔」と比べると、小学生が主人公ということで、モテない男の僻みというのがない。ある意味、それが作者の個性のように思っていたので、それがないとちょっとパワー不足のように感じられた。主人公が密かに恋心をいだく女性は、不思議な力をもつお姉さんがその役を担っている。定番として”おっぱい”ネタも登場する。生々しいエロさはいっさいなく、ギャグに近いエロは健在だ。これがある意味、作者の作品と感じさせる部分だ。

コーラの缶をペンギンにするお姉さん。草原に登場した謎の「海」という物体。SF風な流れは確実に存在し、不思議な現象については特に説明はない。アオヤマ少年が、常に理論立てて考えるので、読者はそれをヒントに不思議な現象がどのようなものかを想像するしかない。少年とお姉さんとの交流物語という側面もあり、少年が年上の女性に恋をし、少年の同級生の女の子に嫉妬されるなんていう、ひと昔前のラブコメ風な流れもある。今までの作者の物語を想像していると、ちょっと物足りないかもしれない。モテない男の屈折した恋を、ユーモアたっぷりに描いた作品を読みたい人には向かない作品だろう。

物語の不条理具合が、なんとなく村上春樹に近いように感じられた。不思議な現象が起こり、特に理由の説明がなく、解決する。キャラクターが丁寧で、理論だった言葉をつむぎ、おっぱいに興味がある。この部分のみ、作者の個性で、それ以外は村上春樹と同様と言ってもいいかもしれない。ちょっとした冒険とハラハラドキドキ。ディープなエロはなく、人が死んだりは絶対にしない。ソフトな村上春樹といった感じだろうか。読後感は、なんだかよくわからないが、よかったのかもしれない…、といった感じだ。

今までの作者の濃い作品をイメージすると、その落差に驚くことだろう。




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