太陽の塔 森見登美彦


2010.8.4  イケてない大学生の妄想 【太陽の塔】

                     
■ヒトコト感想
ある意味ストーカーを地でいくような作品。ストーカーの内面を面白おかしくユーモラスに描いたモノのようにも思えるが、想像以上に面白い。京都のイケてない大学生は皆こんな感じなのだろうかと勝手な先入観を持ってしまうほど強烈だ。「研究」と称して女の子をつけまわす。森本の友達もまた一癖も二癖もある人物で、陰鬱な妄想の世界が繰り広げられる。ただ、男なら誰しもほんの少しは考えたであろう妄想もある。京都を舞台とし、ドロップアウトした大学生がおりなす日々の生活。やっていることや考えていることはかなり悪質だが、語り口が面白いので思わずニヤニヤしてしまう。作者ならではの文体と、京都がまるで未知の国のような錯覚を持ってしまう京都描写はすばらしい。

■ストーリー

京大5回生の森本は「研究」と称して自分を振った女の子の後を日々つけ回していた。男臭い妄想の世界にどっぷりとつかった彼は、カップルを憎悪する女っ気のない友人たちとクリスマス打倒を目指しておかしな計画を立てるのだが…。

■感想
作者の作品はいくつか読んだが、その原点のような作品なのだろう。いきなりユーモア全開で、この面白さを最後までキープできるか心配だったが、見事に最後までこのテンションを貫いている。大体この手の作品は最初の勢いが良くても、尻すぼみで面白さが薄れていくというのがあるが、本作はしっかりとクオリティを保っている。京都がまるで暗黒の世界のように思わせる描写。女っけのない男たちだけの生活というのは、これほど他者を憎み、恨むのか。さらにこれほどインパクトのあるいたずらや、男くさい妄想を繰り広げているのだろうか。

森本や飾磨など、強烈な個性をふりまく面々が京都の町を舞台に暗躍する。妄想が妄想の域を超えており、さらに面白い。それも正統派な面白さというよりも捻くれた面白さだ。いちいち小ネタをはさみながら、読者を煙に巻いている。唯一ヒロイン的扱いを受けている水尾さんもなんだか変わり者らしく、言動や行動がおかしかったりもする。タイトルである「太陽の塔」が水尾さんの象徴的扱いとして描かれており、それに群がる多数の人々の行動がインパクトある言葉で描かれている。

京都へは行ったことがない。しかし、本作を読んだことでなぜかちょっと行きたくなってしまった。特別京都の観光地が登場するわけではないが、鴨川に規則正しく並ぶ男女男女の並びを見てみたくなった。そして、学校を卒業できず髪がボサボサでヒゲ面の男というのが、そのへんをフラフラ歩いているのではないかと思えてしまう。ある意味京都のイメージをしっかりと受け継いでいると思うが、作品の面白さと反比例するように、京都のイメージはどんどんダークサイドへ流れていくような気がした。

男の深くて暗い妄想を、言葉で表現すればこうなるのかもしれない。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp