終わらざる夏 下  


 2012.3.22   戦争を知らない世代へ 【終わらざる夏 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

上巻では赤紙により戦地へと向かう人々の苦しみと、残された者たちの悲しみが描かれていた。本作では、とうとう戦争が終わり、平和がおとずれると思われた矢先、占守島をめぐる激しい戦いがくり広げられる。まず玉音放送により、敗北を知ったものたちの気持ちがすさまじい。理不尽な状況からの解放と、負けたことの苦悩。それらを天秤にかけると、自由の方が圧倒的な重みがあるのだろう。終戦の瞬間というのは、想像以上に強烈な出来事なのだ。そして、無傷の精鋭たちが残された占守島では、どのようにして終戦の瞬間を乗り切るかが描かれている。屈強な兵士たちは、戦争が終わったことへの喜びか、それとも死にきれなかったという後悔があるのか。知られざる孤独な戦いが、北の孤島で行われていたというのは、かなりの衝撃だ。

■ストーリー

千島列島の孤島・占守島は、短い夏を迎えていた。女子挺身隊として占守島の缶詰工場で働く女子高生たちは、函館に帰る日を待ち望みながら日々を過ごしている。一方、片岡、菊池、鬼熊らも難儀したすえに占守島に到着。そこで3人は、日本が和平に向かっていることを大本営参謀から教えられる。片岡は妻に宛てた手紙で、戦争の真の恐ろしさについて語り、和平を成功させ、平和な世で『セクサス』を出版する決意を綴る。しかし、占守に侵攻しつつあるのは米軍ではなく、ソ連軍であった……。日ソ双方に多くの犠牲者を出し、占守島の戦いはついに収束する。残った日本兵はシベリアに連行された。肉体的にも精神的に厳しい生活に、菊池は生きる望みを失いかけるが……。

■感想
上巻から積み重ねられてきた、戦争の理不尽さというのが本作で爆発する。玉音放送により、すべてが無になる世界。今までの戦争という足かせがとれたとき、人々はどのような行動をとるのか。疎開先から逃げ出した子供たちや、今まさに赤紙によって召集された男など、有無を言わさぬ強制力が突如として消滅したとき、人は呆然となるしかないのだろう。平和がおとずれるという喜びもあるが、戸惑いの方が大きいのかもしれない。現代に生きる人にとっては、この時代の天皇陛下の言葉というのが、どの程度のものなのか、本作を読むと衝撃を受けるだろう。

本作で一番心打たれるのは、北の孤島での孤独な戦いだ。輸送手段がなく孤立した精鋭たち。その気になれば、戦い続けることもできるが、敗戦を知り、その後の行動に戸惑いをみせる。歴史的事実として知らされることではない。教科書にはのっていないが、実はとんでもなく苦しい葛藤がそこにはあったのだろう。無条件降伏を受け入れたはずが、ソ連から攻め込まれる。武装解除するのか、それとも戦うのか。島に残された女学生たちを無事本土へ帰すという仕事と、平和的な解決を目指す孤島の司令官たち。これほど衝撃的な出来事が、終戦直後に行われていたとは、驚きでしかない。

本作の優れているところは、日本目線だけでなく、攻めるソ連側兵士の目線でも描かれていることだ。誰も好き好んで戦いを仕掛けたわけではない。そこには、姿が見えないが理不尽に命令を下す存在がある。国と国との利益をかけた戦いというのは、常に末端の兵士だけが被害をこおむる。この部分がなければ、本作を読むと、ただただソ連に対しての怒りがわくだけだった。戦争はすべての人々を不幸にする。この作品を読むと、誰もが戦争の無益さを思い知らされるだろう。決して戦争は起こしてはならない。ラストで、占守島の屈強な兵士たちが、シベリアでの強制労働を強いられる場面では、思わず涙がこぼれそうになった。

自分も含め、戦争を知らない世代にはぜひとも読んでほしい作品だ。




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