2012.3.1 なんて幸せな日常だ、と思う 【おおきなかぶ むずかしいアボカド】
評価:3
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■ヒトコト感想
「村上朝日堂」的くだらなさがあるかと思いきや、わりとマジメに日常を描いたエッセイ集だ。村上朝日堂は、へんてこな絵がくだらなさを倍増させていた。本作は銅版画ということで、独特な雰囲気はあるのだが、ふざけているようには感じない。挿絵の雰囲気のせいもあるのだろうが、作者の日常のちょっとした疑問や習慣などがぼんやりと描かれている。作者のイメージは今までのエッセイでわりと固まっていたので、大きな印象の変化はない。人当たりは良さそうだが、へんなところにこだわりがあり、人によっては気難しく感じてしまう。サインくらいしてやってもいいのではないかと思うが、色紙にはサインしないらしい。本にしかサインしません、なんて断っているシーンを読んだら、「やっぱり気難しい人なんだ」と思ってしまうだろう。
■ストーリー
村上春樹のテキストと大橋歩の銅版画がつくり出す居心地のいい時間。野菜の気持ち、アンガー・マネージメント、無考えなこびと、オキーフのパイナップル、あざらしのくちづけ、うなぎ屋の猫、決闘とサクランボ、ほか全52篇。
■感想
作者の独特な雰囲気があるエッセイ集。他の作家と違い、毒がいっさいない。自分の好きな作家のエッセイでは、毒があるからこそ面白いというエッセイもある。毒なしに、日常のちょっとしたことがエッセイとして成立するのはすごい。若干、たいくつするかもしれないが、こののんびりとした雰囲気は、作者だけしか出せない。時事問題がほとんどなく、自由気まま(に感じる)生活がうらやましくもある。売れっ子作家だけに、自由に海外で生活し、気ままに小説を書く。そんな天国のような生活をこのエッセイから勝手にイメージしてしまった。
作者は毎朝ランニングし、1年に1回はトライアスロンに出場し、タバコはやめて、料理を自分で作ったりもする。まさに、健康そのものの毎日だ。このエッセイだけ読むと、なんの悩みもなく、日々平穏な日常をすごしているように思えてしまう。絶対にそんなことはないはずだが、エッセイからにじみ出る雰囲気がそう思わせる。これは得なのか、損なのか。もっとアクセク働けと思う人もいるかもしれないし、幸福なエッセイを読んで、同じく幸福な気持ちになる人もいるだろう。作者のエッセイを求める人は後者が多いかもしれないが…。
作者のエッセイには、いくつか共感できる部分がある。かと思えば、まったく意見が違う部分もある。当然だろう。作者の日常を読んでいる気分になれるが、これがすべてではない。たまにニヤリと笑えるようなエッセイもあるが、ほぼ日常のちょっとした出来事をエッセイにしているので、強烈に印象に残ることはない。「ああ、こんな生活をしているんだ」と思う程度だろう。実際には小説を作り出す上で、ただ書くだけでなく、いろいろな人間関係の悩みもあるだろう。ウジウジした一般人の悩みを超越した高みにいるように感じてしまうのが、このエッセイの特徴かもしれない。
なんて幸せな日常なのだ、とこのエッセイだけ読むと思ってしまう。
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