おまえさん 下  


 2012.5.10   人の思いの残酷さ 【おまえさん 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

上巻から引き続いた事件は、20年前に引き起こされた事件と関係していた。早い段階で犯人と思わしき人物の存在は明らかとなる。犯人捜しのミステリーではなく、そこに関わる人々の心の問題がクローズアップされている。人の思いの恐ろしさと、因縁ゆえのやるせなさ。多数の登場人物たちすべてが関係しているわけではないが、大きな人間関係の輪でいうと、すべてが繋がっている。富クジを引き当てた男も、隠居老人も、ブサイクだが腕の立つ男も、すべてが事件の重要な関係者となる。人の思いの残酷さというのを遠まわしに描いている本作。特に、恋愛についてはどうしようもない、と言うには悲しすげる結末がまっている。

■ストーリー

父親が殺され、瓶屋を仕切ることになった一人娘の史乃。気丈に振る舞う彼女を信之輔は気にかけていた。一方、新兵衛の奉公先だった生薬問屋の当主から明かされた二十年前の因縁と隠された罪。正は負に通じ、負はころりと正に変わる。平四郎の甥っ子・弓之助は絡まった人間関係を解きほぐすことができるのか。

■感想
長大な物語の終わりとしては、複雑な事件がシンプルにまとまっている。ただ、複数の事件が密接に関わるかというと、そうではない。事件として必要かどうか、もしかしたらいらないのでは?と思うようなエピソードもいくつかある。それでも、事件に関係する登場人物たちが、印象深い言葉を発したり、その後の事件の教訓となるような出来事だったりと、まるっきり無関係ではない。この長大な物語を読んでいると、それぞれのエピソードが、時代を彩る良いスパイスになっているようにも感じてくる。

本作では、ブ男だが剣の腕が立ち、顔以外はすべて完璧な信之輔がポイントなのだろう。瓶屋の一人娘である史乃に淡い恋心をいだきつつも、自分の容姿に引け目を感じ、勇気をだすことができない男。そうであっても、恋心をひっそりと育てていく。そんな信之輔に悲しい現実がまっている。何も創作である小説で、ここまで辛い現実にする必要があるかというほど、残酷な出来事だ。事件の真相が明らかになったとしても、言いようのない悲しみは残る。しょうがないものと頭では理解していても、悲しい現実というのはある。

いつものキャラクターたちの、胸のすくような大活躍はない。本作では、人の色恋というのは、どうしようもないもの、という結論になっている。どんなに相手に尽くそうが、相手が振り向いてくれなければ、どうしようもない。そこには、努力だとか強い思いも、相手に伝わり、相手が受け入れなければ意味がないという結論に達している。悲しいがこれが現実なのだろう。物語の定番としては、ブ男だが心優しい信之輔には最後に幸せが待っているというのがセオリーではないだろうか。

時代小説であっても、現実と変わらないのだと、あらためて思い知らされた。




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