涙流れるままに 上  


 2013.5.13     吉敷と通子のルーツ 【涙流れるままに 上】

                      評価:3
島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

吉敷シリーズ。それも、吉敷と元妻である加納通子の関係を深く掘り下げた作品だ。「北の夕鶴2/3の殺人」や「羽衣伝説の記憶」を読んでいれば、通子の過去の出来事に、実は深い意味があったのだと気づくだろう。ただ、基本的には、過去の話をより詳しく語っているだけなので、衝撃的な事実はない。通子の心の中でトラウマとなる首なし死体の意味は何なのか。そして、吉敷が出会った冤罪を訴え続ける恩田夫妻は…。

メインは吉敷が調査する冤罪事件なのだろうが、何十年も前の事件をどのようにして解明していくのか。その過程で、過去の忌まわしき思い出と遭遇したとき、吉敷はどのような反応を見せるのか。通子と吉敷の関係が主なだけに、ミステリー色をどのようにして出すのか、気になるところだ。

■ストーリー

吉敷竹史の元妻・加納通子は、「首なし男」に追われる幻影に悩まされていた。その原因は、数奇な運命に翻弄されてきた自らの半生にあるのではないかと思い至る。過って級友を死なせた事件。婚礼の日に自殺した麻衣子と、直後の母の変死。そして柿の木の根本に埋めたあるものの忌まわしい記憶!?通子は少女時代に体験した数々の悲劇の真相を探る決心をしたが…。

■感想
吉敷と元妻、通子については、他作品で散々登場しているので、特別な印象はない。通子の過去のトラウマの概略についても、他作品ですでに出でいたことなので大きな衝撃はない。通子のその時の心境が詳細に語られ、通子の人格形成に大きな影響を与えたという流れになっている。

対して吉敷は、冤罪で苦しむ恩田夫妻と出会う。吉敷はいつもどおり、自分の思うがままに、冤罪事件に興味を持ち、独自の捜査にのりだす。このあたりの冤罪事件解明がメインとなりそうだが、あまりに昔すぎて、それほど論理的な解明ができない気がしてならない。

通子の過去を紐解く過程で、あるトラウマが登場してくる。通子の心にこびりつくトラウマの原因は、吉敷が調査する冤罪事件と大きな関係があるのは確かだ。吉敷が調査し続けると、通子に行きつくのは容易に想像できる展開だ。それらが、物語に大きな流れを生むのだろう。

通子と吉敷の関係を描くとしたら、絶好の理由なのかもしれないが、冤罪事件の調査に、はっきりとした答えがでるのだろうか。証拠は消滅し、関係者も死に絶えている。そんな状況からどうやって答えを導きだすのか…。

上巻はまだ準備段階として、下巻には、吉敷と通子の出会いや、事件の真相が語られるのだろう。上巻のラストには、自分の調べている事件が通子へと繋がる可能性を察知する吉敷。長大な物語であり、もしかしたら吉敷シリーズの集大成になるかもしれない。

吉敷と通子の関係が、本作を経て劇的に変わるとは思えない。吉敷のこだわりをもった捜査。通子の自虐的な考え方。それらは、お互いの個性であり、ガラリと様変わりすることはありえない。とすると、結末ではまた別れがまっているのだろう。

吉敷のキャラは若干変化がありそうな兆しが本作にある。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp