2012.10.25 シリーズの読み込み必須 【羽衣伝説の記憶】
評価:3
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■ヒトコト感想
「北の夕鶴2/3の殺人」を読んでいなければ辛い作品だろう。吉敷と元妻である通子の関係を描いているだけに、北の夕鶴~の事件を知らないと、意味がわからない記述がいくつかある。なぜ通子は吉敷の元を離れたのか。事件の後、復縁するチャンスがありながら、お互い離れ離れになった理由とは…。あいまにはちょっとした事件が発生し、吉敷が地道な捜査で解決するのだが、そこにあまり意味がない。羽衣伝説を追いかけながら、通子を探す旅が続いているだけだ。いつもの吉敷シリーズのように、時刻表だとかアリバイ崩しのたぐいはいっさいない。ひとりの刑事が愛した女と結婚生活を続けられなかった後悔と、若いころの未熟な自分を悔いる作品となっている。
■ストーリー
警視庁捜査1課の吉敷竹史は、ふと入った画廊で作者のない“羽衣伝説”と題された彫金を目にした。これは、別れた妻・通子の作品では?妻への思いをかきたてられた吉敷は、ホステス殺しの真犯人を追いつつ訪れた伝説の地で、意外にも妻の出生の秘密に行きあたる。
■感想
吉敷シリーズを読んでいる人には、十分楽しめるだろう。吉敷の新米刑事時代や、そのときにコンビを組んだとんでもなく横暴な先輩刑事の存在など、吉敷シリーズを今後も楽しむには欠かせない要素なのかもしれない。そんな中で、吉敷が通子と運命的な出会いをし、どのような新婚生活を送ったのか。忙しい刑事の妻とはどんな状況なのか。先輩刑事に家に押しかけられ、無理矢理おしゃくをさせられるなど、若い吉敷の意外なほど苦労した部分が垣間見えてくる。それらの苦労が直接ふたりの離婚に繋がるわけではないが、新婚という一番良い時期が、辛い状況でもあるという皮肉な結果となった。
通子を探す中で、ひとつの事件に遭遇する。その事件自体は特別なものではない。ただ、事件を捜査するに従い、偶然にも羽衣伝説に行き着き、そこで通子の手がかりを見つけ出す。離婚したのち、一度事件で関わりをもったのならば、刑事として、吉敷ならばいくらでも通子を探し出すことができたはずだ。そのことは、作中でも通子の言葉として語られている。男の都合の良さというか、仕事の忙しさを理由とすれば、なんでも許されるという思いが、吉敷の中にあるようにも感じられた。
後半では、吉敷は通子を探し出すことに成功する。そこで、通子が結婚を恐れた理由というのが語られている。ある意味、これが本作のメインかもしれない。通子が幼いころから心に仕舞いこんできた思い。北の夕鶴~での事件が解決したことで、ひとつの不安は取り除かれても、まだ根深く残るもうひとつの不安がある。それが解決されない限り、吉敷と通子は寄りを戻すことはない。ここで、吉敷の信じられないような推理力が突然はっきされることになる。30年も前の出来事を解明するのは、驚きというより強引さの方を強く感じてしまった。
吉敷シリーズを読んでいることが前提の作品だ。
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