2012.10.30 最高のキャラクター紹介 【無理 上】
評価:3
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■ヒトコト感想
地方都市ゆめので生活する男女の物語。作者のこの手の作品は面白いことはわかっていた。まず、登場人物の個性がすばらしく、その行動や考え方を読んでいると、まるで上質なテレビドラマを見ているような気分になってくる。本作に登場するキャラクターは、どこにでもいそうで平凡だ。それでいて、キャラクターたちが感じる怒りや憎しみというのが、ものすごく共感できる。ある意味異常な部分もあるが、それを加味したとしても、このキャラクター描写はすばらしい。特に地方公務員のエピソードとして、生活保護についての記述があるが、これはまさに読んでいて怒りがこみ上げてきた。こんなことが許されていいのか。不公平さに怒り狂うということは、本作の登場人物たちと同じということなのかもしれない。
■ストーリー
合併で生まれた地方都市・ゆめので、鬱屈を抱えながら暮らす5人の男女―人間不信の地方公務員、東京にあこがれる女子高生、暴走族あがりのセールスマン、新興宗教にすがる中年女性、もっと大きな仕事がしたい市議会議員―。縁もゆかりもなかった5人の人生が、ひょんなことから交錯し、思いもよらない事態を引き起こす。
■感想
強烈に感情移入したのは、やはり公務員と族上がりのセールスマンだ。特に公務員の生活保護についての下りには、怒りを覚えてしまう。マジメに働く者が馬鹿をみる。作者はある程度誇張して描いているのだろうが、ニュースなどで聞くと、生活保護の問題というのは永遠になくならないのだろうと思えてしまう。そんな問題を、作者はキャラクターを通してわかりやすく、怒りを覚えるほどリアルに表現している。誰もが不幸せには違いないが、同情できるものではない。今流行の自己責任という言葉で断罪したくなるのもしょうがないだろう。
族上がりのセールスマンのエピソードは、不安がつきまとう。詐欺商品を売りつけ儲けるのだが、その後、激しい転落が待っているのは目に見えている。作者の「邪魔」や「最悪」でもそうだが、平和な日常が突如として変貌する香りがただよっている。絶対に幸せになりそうもない展開にも関わらず、仕事にやりがいを感じ、社長に心酔する姿を読まされると心が痛くなってくる。宗教にすがる中年女性もそうだが、根本には貧困があり、そこから抜け出そうという強い思いが、より物悲しさを際立たせている。
本作の登場人物の中で、市議会議員だけは異色だ。金と女に不自由なく、議員としても順風満帆。ただ、怪しげな雰囲気はある。エリートたちが転落していく過程で、他のキャラクターとどのように絡んでいくのか。この手の作品の場合、前半はキャラクター紹介にさかれるのはしょうがない。キャラ紹介としてはこれ以上ないくらいうまくいっている。それぞれのエピソードに思わず釘付けになってしまう。生活保護や、万引きGメンなど、興味深い題材をあつかっているせいもあるのだろう。ただ、下巻でどのようなオチとなるのか。それによって、全体の評価は大きく違ってくるだろう。
上巻のキャラクター紹介としては、完璧といっていいくらいのできだ。
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