御手洗パロディ・サイト事件 下  


 2013.10.3     本家の短編は一味ちがう 【御手洗パロディ・サイト事件 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ネット上のパロディ小説をただ単純にいくつかピックアップし掲載したのが上巻。下巻では引き続きパロディ小説を掲載しているのだが、物語として影響があるのはひとつの作品しかない。あとはただネット上の作品を、作者の目線で批評しているような感じだ。

確かにすぐれた作品もあるが、やはりパロディという印象はぬぐえない。女子大生が行方不明となったきっかけを探し出すのがことの始まりだが、きっかけとなる小説は明らかに他の作品とは違う雰囲気をかもしだしている。なぜこの作品が選ばれたのか、御手洗潔とはほとんど関係ないように思える作品のため、すぐにこの作品が行方不明事件に繋がるのだと気づいてしまう。

■ストーリー

パ依然として行方のつかめない女子大生・小幡の消息。電脳空間に繰り広げられる事件に翻弄される石岡と里美。「甲府の鍵屋社長が開発した新製品が巻き起こす事件」「イングランドの遺跡で服を紫色のペンキで塗られた老人の遺体が発見される」etc.22編の事件は、いったいどう失踪にかかわっているのか。インターネットを舞台にしつつも、今日的な銀行の貸し渋り、介護福祉といった問題に触れたラストは、熱い涙もいざなう超感覚ミステリー。

■感想
上巻と比べると、作者が描いた作品がひとつだけ存在し、その作品が女子大生行方不明事件に関係するということで、多少読み応えはある。本作が発表された当時、まだインターネットがそれほど爆発的に普及してはいなかったのだろう。

作中にはネットでパロディ小説を読めない人のためにとある。だからといって、パロディ小説をそのまま物語に組み込むのはやはり無理があるように思えてしまう。本家に負けない雰囲気をもった作品もあるのは確かだが、やはりそこはファンが描いたという印象が強く残ってしまう。

行方不明事件の鍵となる小説はやはり群を抜いて衝撃的だ。「眩暈」を連想させるような変換ミスだらけの小説。読みにくいことこの上ないが、そこには何か不思議な雰囲気がある。コンピュータが主人公と思わしき言葉の数々。電源コードを抜けば死んでしまうという言葉。何かしらを比喩しているのだろうが、わからない。

さすが本家が描いた作品は、他と比べ明らかに異質な雰囲気をはなっている。この作品を紐解き行方不明者を捜索するのだが、かなり強引だ。いくらなんでも、この小説から行き着く答えとしては、できすぎていると感じてしまう。

本家の「眩暈」が好きな人ならば、かなり興味を惹かれるだろう短編がある。それ以外のパロディ小説については微妙だ。行方不明者を捜索するという本編とはまったく関係のない、ただネット上に存在した、すぐれたパロディ小説というだけで本作に収録されている。

確かにパロディ小説としてのすばらしさはよくわかる。世間に知られていない面白い作品を発掘するという意味では意義のあることなのかもしれない。ついでに言えば、本作に収録されたパロディ小説の作者が、ひとりでも、その後、作家になったとなれば、なおよかったのだろう。

このパターンがありかなしかと言えば、なしだ。




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