御手洗潔の挨拶  


 2012.11.5    軽めのミステリー 【御手洗潔の挨拶】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

占星術殺人事件」の御手洗潔が主人公の短編集。ワトソン役として石岡が登場し、御手洗潔のへんてこなキャラがこれでもかと表現されている。ただ、御手洗潔は確かに変人であることに間違いはないのだが、ミステリー小説の探偵役としてはよくあるパターンかもしれない。音楽的才能があり、知識も豊富で、イケメンで、すべてそろっているが性格に難あり。作者の作品には、吉敷シリーズというのがある。主人公の吉敷はまともな刑事で、キャラクターの雰囲気としては吉敷の方が好きだ。本作は御手洗潔の紹介という意味も強いのだろうが、事件としても御手洗潔に解かせるために、捻くれたものばかりだ。どういった思考でそこにたどりつくのかは、あいかわらず不明だが、鮮やかにトリックを解決するのは、読んでいて爽快な気分だ。

■ストーリー

嵐の夜、マンションの十一階から姿を消した男が、十三分後、走る電車に飛びこんで死ぬ。しかし全力疾走しても辿りつけない距離で、その首には絞殺の痕もついていた。男は殺されるために謎の移動をしたのか?奇想天外とみえるトリックを秘めた四つの事件に名探偵御手洗潔が挑む名作。

■感想
短編ということで、ひとつひとつの事件はそれほど複雑ではない。「占星術殺人事件」のイメージからすると、あまりにあっさりと御手洗潔が解決しすぎるような気がするが、軽い気持ちで読めるというのは良い。「数字錠」は、トリックとしてはどちらかというと吉敷シリーズ寄りのような気がした。事件が起こり、関係者のアリバイを崩す。数字錠に大きな意味があるかというと、そうではない。事件のトリックよりも、事件に関係する登場人物たちの心の悩みを、なぜか御手洗潔が察知してしまうという物語だ。

「疾走する死体」は、「斜め屋敷の犯罪」に似た雰囲気の短編だ。マンションにいた人物が、いつの間にか走る電車に飛び込んでいた…。物理的に不可能と思われる状況を解き明かすのだが、そのトリックはかなり大掛かりなものだ。トリックを実現するシーンを想像すると、デフォルメされたアニメを思い出してしまう。それだけ人間離れしたことをしようとする状況だ。また、本作では、御手洗潔の音楽的才能が語られている。ただ、どれだけ才能に満ちあふれていたとしても、どこか変人という印象を拭いさることはできない。

「紫電改研究保存会」は、本作の中で一番好きな短編かもしれない。ひとりの男が不思議なことが起きたと語る。その内容は、確かに意味のないことかもしれないが、その裏では実は…。なんてことない出来事で、トリックも特別ではない。御手洗潔にしても、そこまで個性をだせていない。何か殺人事件が起こるだとか、不可思議な事件が起きるわけではなく、ひとりの間抜けな男が、本来ならば手にするはずの大金を手にできなかったというだけだ。このライトな感じが良い。御手洗潔は抜きにして、軽めのミステリーは読んでいて心がすっきりしてくる。

御手洗潔シリーズのファンならば読んでおくべき作品だろう。




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