占星術殺人事件  


 2012.8.13   色あせないトリック 【占星術殺人事件】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

トリックが画期的というか、目からうろこが落ちるような作品だ。40年も前の事件の推理をするという無理矢理感はあるにせよ、トリックの斬新さはすばらしい。6人の若い女性の肉体の一部を組み合わせ、完璧な人間を作るという猟奇的な事件と思わせておきながら、答えは別にある。占星術という仰々しい前フリと、過去の手記や40年かけて調べられた情報が事件を複雑にする。御手洗潔が、情報だけで事件を解決するというはなれ業をやってのけるのだが、そこに不自然さがないのが作者の筆力のなせるわざだろう。狂言回し役と、名探偵役がきっちりと別れ、流れとしてはオーソドックスだが、トリックの驚きで作品全体をすばらしいものに作り上げている。

■ストーリー

密室で殺された画家が遺した手記には、六人の処女の肉体から完璧な女=アゾートを創る計画が書かれていた。彼の死後、六人の若い女性が行方不明となり肉体の一部を切り取られた姿で日本各地で発見される。事件から四十数年、未だ解かれていない猟奇殺人のトリックとは!?名探偵・御手洗潔を生んだ衝撃のデビュー作、完全版。

■感想
密室で発生した事件をきっかけに広がる猟奇的殺人事件。40年前の事件を推理するという無理矢理な展開から、狂言回し役の主人公が事件を引っかきまわす。意図的に読者をミスリードするような流れにはなっているが、そこに不自然さはない。読者は御手洗たちと同じように、独自の推理を展開するが、小難しい流れの中で、完全な答えを得ることができない。そうなると、どんなウルトラCが待っているのかと、トリックの解明に期待してしま。本作はその期待を裏切らないような驚きのトリックがある。

冒頭から6人の処女の肉体の一部を切り取り、完全な肉体を作るという、かなり強烈なイメージを植え付け、物語の異常さを表現している。事件は異常者の犯罪をにおわせつつ、その先にある秘密を解明しようとする。占星術になぞらえて、すべての出来事に無理矢理理由づけをする。このあたり、舞城王太郎がミステリーをこバカにするようにめちゃくちゃな理由付けをするが、それに近いようにすら感じるほど、複雑怪奇な説得だ。占星術や緯度経度がどうのこうのというあたり、あえて事件を複雑にしているのだろうが、このあたりが、物語の奇妙さを増大させている。

御手洗潔という初登場のキャラクターには特別な印象はない。ただ、頭の中で考えるだけですべてを解決してしまうという、名探偵としてはありがちなパターンだというのはわかった。本作では、事件のトリックが明かされる前に、潔が犯人をあっさりと見つけ出してしまう。そこが本作の面白さのピークだろう。どのようにして犯人がわかったのか。数々のトリックはどのようにして解明したのか。ラストの犯人の手記は、物語を締めくくるには、これ以上ないほどしっとりと心に染み入るモノとなっている。

古い作品ではあるが、今でも色あせることのないトリックだ。




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