緑の毒  


 2012.6.28   嫉妬からの異常行動 【緑の毒】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

嫉妬にくるい、異常な方向へと向かう開業医の川辺。様々な登場人物の視点で語られる本作。異常な状況でありながら、ミステリアスな展開が読者を引き付けて離さない。スタンガンと薬でレイプを繰り返す川辺の悪行が、レイプ被害者同士の協力により、すこしづつ明らかとなる。川辺包囲網が縮まっていく様は、読んでいて強烈なインパクトがある。人と人との繋がりと、偶然の要素が絡み合い、いつのまにか川辺の近辺にまで包囲網が近づいている。この手の展開は作者の得意とするところで、「OUT」に近いかもしれない。ただ、多数の登場人物たちで物語を構成しているため、全体の重厚さが薄れている。衝撃的な事件の結末にしては、なんだかやけにあっさりした終わり方のように感じた。

■ストーリー

妻あり子なし、39歳、開業医。趣味、ヴィンテージ・スニーカー。連続レイプ犯。。水曜の夜ごと、川辺は暗い衝動に突き動かされる。救命救急医と浮気する妻に対する、嫉妬。邪悪な心が、無関心に付け込む時――。

■感想
おしゃれな開業医の川辺。妻が浮気をしていることに嫉妬し、見ず知らずの女性をレイプすることで、心の均衡を保つ異常な男。この川辺が行う異常な行動には、寒気がしてくる。嫉妬心がどのように屈折すると、本作のような凶行にいたるのか。川辺の周りの登場人物たちも、どこか頭のねじがひとつ外れているような異常さがある。陰湿な事件と、被害者が訴えない状況から、川辺には到底たどりつけないと思いきや、偶然も絡み合い、最後には川辺が追いつめられていく。この絶妙な偶然具合がすばらしい。

物語は、異常な川辺の事件がどのように露見するかをたどっていく作品だ。被害者やその関係者など、様々な登場人物たちの目線で物語は語られている。そのため、まったく川辺とは関係のない人物を通して、被害者や川辺の関係者に行き着き、そこから事件解決へのヒントへと繋がっていく。警察や探偵など、調査する人物は存在しないが、被害者たちがネットで協同し、人のネットワークで情報が集まってくる。いかにも現代的な結末をむかえる本作だが、人と人との繋がりの妙が印象的だ。

川辺以外にも人の悪意は充満している。登場人物たちが何げなく思う悪意。ものすごくリアルでありながら、全体を暗く陰鬱なものへと導いている。それぞれの登場人物が、基本的に不幸をベースとしている。そのため、幸せな結末はない。不幸の連鎖の先に、全ての元凶である川辺が存在している。物語の構成はすばらしく、複数の視点から目的を達成するまでのワクワク感は強烈だが、全体的に淡白な印象がある。あまりに細切れにしすぎたせいか、ラストもやけにあっさりとした終わり方と感じてしまった。

異常さと、人の悪意のリアルな物語だ。




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