真夜中のマーチ  


 2011.3.8  軽すぎる犯罪ドラマ 【真夜中のマーチ】

                      評価:3
奥田英朗ランキング

■ヒトコト感想

軽い感じのクライムサスペンス?やっていることはかなり危ないが、物語全体に緊迫感がなく、どこかサラリとしたお遊びのように感じてしまう。ヤクザや中国マフィアを出し抜いて10億もの金を奪い取ろうとする。そこにいたるまでに様々な危機があったが、ギリギリかわしている。痛快であり、あまりにうまくことが進みすぎるので、マンガ的に感じてしまう。個々のキャラクターはしっかりとした個性があり、あだ名もヨコケン、ミタゾウ、クロチェと申し分ない。ただ、作者の他の重厚な作品と比べると、どうしても物足りなさがある。ユーモアを狙った作品というわけでもないので、中途半端な印象は拭い去れない。明るく楽しい犯罪ドラマの原作としてなら良かったのかもしれない。

■ストーリー

自称青年実業家のヨコケンこと横山健司は、仕込んだパーティーで三田総一郎と出会う。財閥の御曹司かと思いきや、単なる商社のダメ社員だったミタゾウとヨコケンは、わけありの現金強奪をもくろむが、謎の美女クロチェに邪魔されてしまう。それぞれの思惑を抱えて手を組んだ3人は、美術詐欺のアガリ、10億円をターゲットに完全犯罪を目指す!が…!?

■感想
それぞれ個性的なキャラが、大金をせしめようと暴れまわる。中盤までは成り上がりを目指すヨコケンの青春小説といった感じで面白かった。ミタゾウのヘンテコなキャラクターも個性があり、ヤクザから追い込まれたりと、山あり谷ありテンポのよい展開は楽しめた。このままの流れでいくのかと思いきや、美術詐欺師の白鳥が登場し、その娘であるクロチェが関わってくるあたりから、やりすぎな方向へと流れていく。いくらなんでも都合が良すぎるだろというような展開と、計画的ではあるが、その計画が穴だらけなことばかりが気になってしまった。

10億を奪い取るという考えと、それに付随するリスク。ヤクザや中国マフィアを相手に命をかけた計画のはずが、そこに緊迫感はない。というか、物語を通してどんなに辛い状況であっても悲壮感がいっさいない。そのため物語全体として、かなり明るく軽い印象ばかりが残っている。誰も死なず、追い込まれるとういことがない。ヤクザなどを相手にするとなると、最悪邪魔でもそうだったが、かなり精神的に追い込まれる状況があるはずだが、それがいっさいない。どちらかというと、マンガ的で、軽い感じのドラマというような感じだろうか。

三人のキャラクターはそれなりに立っているので、楽しく読むことはできる。主役であるはずのヨコケンはいいとして、ミタゾウも個性がある。ただ、クロチェだけは都合が良すぎるというか、動機が曖昧で、登場してくる弟もなんだかインパクトがない。全体的に明るく楽しいのはわかるが、やっていることを考えると緊迫感があまりになさすぎるような気がした。登場するヤクザとしても、怖さをあまり感じない。物語のトーンが明るく楽しいものであるだけに、全体として深刻さを感じなくさせたのだろうが、ちょっと軽すぎるように感じられた。

頭の中では、マンガ絵のキャラたちが動き回っていた。




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