街の灯  


 2012.2.16  昭和初期のご令嬢たち 【街の灯】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

昭和初期の物語。上流階級の令嬢である英子が様々な出来事に遭遇し、謎を解き明かしていく。その過程では女性運転手である別宮(通称ベッキー)のアドバイスにより新たな発見をする。作者の看板シリーズである円紫シリーズとはまた違った雰囲気の作品だ。ミステリーとしてのトリックは、たいしたことはない。それでも、昭和初期の雰囲気がすばらしいために、物語全体を奥深いものにしている。上流階級のお嬢様の生活を通して、その時代の不自然さや、国が暗黒時代に向かうであろう雰囲気がでている。現代物語よりも目新しく感じるのは、登場する小道具やイベントが特殊だからだろう。謎めいた存在であるベッキーが、シリーズを通してどう変わっていくのかも気になる部分だ。

■ストーリー

昭和七年、士族出身の上流家庭・花村家にやってきた女性運転手別宮みつ子。令嬢の英子はサッカレーの『虚栄の市』のヒロインにちなみ、彼女をベッキーさんと呼ぶ。新聞に載った変死事件の謎を解く「虚栄の市」、英子の兄を悩ませる暗号の謎「銀座八丁」、映写会上映中の同席者の死を推理する「街の灯」の三篇を収録。

■感想
士族出身で上流階級の物語なだけに、基本的にその時代にしては恵まれた生活が描かれている。おかかえ運転手がいるくらいなので、今で言う超セレブなのだろう。そんなお嬢様が事件の謎を解き明かす。「虚栄の市」はキャラクター紹介と、ベッキーという何かしら裏がありそうな人物の登場と、英子の推理力がメインに語られている。ごく普通のミステリーであり、トリックは特別目新しくもない。ただ、昭和初期の雰囲気が、物語全体を新鮮なもののように感じさせている。現代物語にはない、独特な生活習慣というのは読んでいて新鮮だ。

「銀座八丁」は、まさに作者お得意の日常の謎をこねくり回して複雑なトリックにしている。答えが示されたとしても、「うーん」と唸るくらいであまり納得はできない。確かにすばらしい知識と、マニアックで新鮮なトリックかもしれないが、ついていけない。それまでの昭和初期の物語としては、とてもすばらしいので、その勢いのまま強引に進めているような気がした。上流階級の令嬢が、銀座の町で謎を解き明かす。時代を感じる言葉遣いや、ちょっとした掛け合いなど、面白い部分は多々あるので、トリックメインとは考えない方が良いだろう。

「街の灯」は表題作ということで、よりミステリー色が強い。それでもトリックメインというよりも、昭和の時代の上流階級の人びとが、何よりも家を大事にするということが描かれている。上流階級の中でも身分の違いがあり、立場によっては事件の結末も違ってきてしまう。古き昭和の風習なのだろうが、上流階級のお嬢様たちは、家の格だけで結婚相手を決められてしまう。トリックとは直接関係のないことかもしれないが、時代に虐げられた人びとが、やけに悲しく思えてしまう物語だ。

作者は現代ものより、本作のような昭和を描いた作品の方が向いている気がする。




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