真夏の方程式  


 2012.3.15   湯川のイメージ一新 【真夏の方程式】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ガリレオシリーズ3作目の長編。シリーズの中では比較的トリックがシンプルで、驚くような解決とはならない。しかし、読後感は「容疑者Xの献身」に似たものがある。なんともいえない物悲しさというか、一人の男が語る事件の真相を読むと、その思いの強さに身震いしてしまう。今回は事件というよりも、そこに隠された様々な要因をどう消化するかにかかっている。湯川が今までになく事件に積極的に関わり、さらには最も苦手と思われた子供を相手にするなど、今までのシリーズにはない、ほのぼのとした雰囲気がある。引き起こされた事件の恨みつらみや、憎しみというのはほぼ皆無だ。事件のあと、関わる人々がどう事件をとらえるのか。少年のひと夏の経験にしては、かなりディープなものだ。

■ストーリー

夏休みを伯母一家が経営する旅館で過ごすことになった少年・恭平。仕事で訪れた湯川も、その宿に滞在することを決めた。翌朝、もう一人の宿泊客が変死体で見つかった。その男は定年退職した元警視庁の刑事だという。彼はなぜ、この美しい海を誇る町にやって来たのか…。これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは―。

■感想
ガリレオシリーズといえば、あっと驚くようなトリックや、完全犯罪としか思えないような複雑なトリックなどが目玉だ。容疑者Xの献身では、トリックとそれに関わる人の思いという両方を満たしたすばらしい作品だが、本作もそれに近いかもしれない。ひとりの少年が、ひと夏に経験したある出来事。湯川が今までになく積極的に事件に関わっていくのは、少年のことを考えてのことだろう。事件の真相はわりと早い段階で何かしら気付くことがある。しかし、そんなことは関係なく、事件に関わる人々にどう決着をつけていくのか、グイグイ引き込む力が本作にはある。

なぜ被害者が、美しい海をほこる町にやってきたのか。それを探ることが、事件解決の近道となる。どことなく、「麒麟の翼」にも似ているが、本作の方が心に響いてくる。事件の鍵を握る人物が、事件の真相を告白する場面では、ある程度予想はついていたことだが、強烈に心に響いてきた。何かを守るためには、どんな犠牲もいとわない。男の強い決断というのが、逆に事件を引き起こしてしまったという悲しい結末になっている。湯川の冷酷なイメージがなりを潜め、すべてにおいて優しさ表に出しているのは、結末の悲しさを和らげるためなのだろうか。

湯川と共に、偶然旅館に泊まることになった少年。非論理的な言葉やへりくつがあたりまえの子供は、湯川が最も苦手とするタイプかと思いきや、湯川は少年と積極的に交流をもつ。このひと夏の経験がその後の少年にどのような影響をおよぼすのかわからない。湯川が危惧したことは、普通の物語として語られる部分ではない。そんなことを物語の題材とし、さらには、湯川が事件に関わるきっかけとするのが驚いた。少年が一生降ろすことのできない重荷を背負うか否か。湯川の行動が100パーセント正しいとは思えないが、ある意味正解なのだろう。

トリックの平凡さを、少年の人生に与える影響力で被い隠している。




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