麒麟の翼  


 2011.9.13  加賀の地道な努力 【麒麟の翼】

                      評価:3
東野圭吾おすすめランキング

■ヒトコト感想

新参者の流れを引き継いだ加賀恭一郎シリーズ。作者の看板シリーズなだけに、否が応でも期待感は高まってしまう。感想としては、新参者の短編を無理やり長編にしたような感じだろうか。日本橋近辺で起こる事件に対して、加賀が独自の捜査で事件を解決する。事件そのものに特別なインパクトはなく、不可能殺人というわけでもない。このシリーズの特徴は、犯人や被害者のバックグラウンドにある何かを解決することにあるのだろう。思いもよらない人物が犯人であることは間違いない。わずかな情報からそこにたどりつく加賀の手腕もすばらしい。本作は加賀の地道な努力と超人的な推理力に驚き、楽しむべき作品なのだろう。

■ストーリー

寒い夜、日本橋の欄干にもたれかかる男に声をかけた巡査が見たのは、胸に刺さったナイフだった。大都会の真ん中で発生した事件の真相に、加賀恭一郎が挑む。

■感想
大都会の真ん中。麒麟の翼の像にもたれかかる男。事件はさも不思議な事件のようなあおりがあるが、実はたいしたことはない。ただ、その事件の裏づけ捜査をしていくうちに、隠された真実が浮かび上がり、加賀がすべての真相を暴きだす。人の気持ちに重点をおくことが多いこのシリーズ。今回も、事件の動機というよりも、被害者がなぜそこにいて、なんのために奇妙な行動をとっていたのかに焦点が当てられている。いつもどおり、加賀が思いもよらないところから見つけ出してくるヒントには、驚かされる。

本作は映画化されるらしい。確かにドラマ版の新参者の面子がそのままイメージできる。ただ、本作を映画化した場合に、どれだけ魅力的な作品になるかは微妙だ。悪くはないが、事件のインパクトが弱いため、犯人への強い興味が薄れてしまう。加賀というキャラクターを目立たせるためだけの作品という位置づけであれば、申し分ない。まったく無関係と思われる部分までも地道な捜査で調べていく執念というのが、ギラギラと表にでるタイプではないだけに、より隠れた努力家的な良いイメージばかりを加賀にもつことになるだろう。

事件にインパクトがないといっても、さすがに読者を引きつける仕掛けがある。中盤までは、加賀がつかんだ手がかりが小出しにされるため、先が予想できない。いったいどういった流れから、被害者の行動に説明がつき、犯人へ行き着くのか。必ず隠された真実があるはずだと思いつつも、それが予想できないために、早く結末が知りたくなり、一気に読み終えてしまう。中盤から終盤にかけての、ジェットコースターのように次々と登場してくる真実には、驚愕せずにはいられないだろう。

シリーズとしては、期待が大きいだけに、それなりに高いハードルを準備し、それをギリギリ超えたという感じか。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp