クレタ、神々の山へ  


 2011.11.29  作家のイメージは? 【クレタ、神々の山へ】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者は作品による先入観が怖いと言っていた。あの「ホワイトアウト」の作者が山に詳しくないなど、だれが思うだろうか。作者はそれを危惧し、TVの企画からクレタ島の山に登ることにチャレンジする。動機を知ると、作家もいろいろと大変だなぁと思えてくる。ギリシャのクレタ島というマイナーな島で登山をする。恩田陸の「メガロマニア」のように古代遺跡をたずねるわけではない。作中からは、明確な目的よりも、山を登ることの辛さや、作者の身体的な問題など、意外なことが知れて興味深い。高度的にはたいしたことのない山であっても、ガレ場ということと、海外ということで、疲れもひとしおなのだろうか。作者については、ホワイトアウトの主人公のような逞しさを勝手に想像してしまった。

■ストーリー

クレタ島の山を登ってみないか…吉川英治文学新人賞のベストセラー「ホワイトアウト」をはじめとしてさまざまな賞を総なめにしている冒険小説作家が,未知の山に挑んだ.NHKのBS特別番組でも放映された,日本人にはほとんど知られていないクレタの大自然をその鮮烈な文体で描きあげる.

■感想
小説家が作品のイメージと一致する必要はないと思う。が、どうしてもその先入観はある。激しい冒険物語であれば、冒険家的な逞しさを連想してしまう。作家という職業柄、部屋にこもりっきりの毎日だというのは想像できたが、どの程度のレベルの運動不足なのかはわからない。本作では富士山ほどではないが、それなりの高度の山に登ったりもする。その道中での辛さを赤裸々に語っているが、それが本当に辛いのか、または作者の運動不足のせいで辛いのかイマイチよくわからなかった。さすがに普段ほとんど運動しない中年が突然山に登るというのは辛いだろう。

ギリシャのクレタ島という、あまり知られていない場所でのトレッキング。日本人がほとんどおらず、ヨーロッパの観光客ばかりらしい。財政難に苦しむギリシャも、観光資源は豊富なのだろう。ギリシャというと地中海のエメラルドのような海を思い浮かべるが、本作では海はオマケでしかない。ある程度の高度になると植物がいっさい生息しない、岩だらけの山をひたすら登り続ける。ギリシャのイメージにはない状況だ。ありきたりな旅エッセイではなく、苦悩をつづった苦行エッセイのように感じられた。

作者のエッセイとして初めて読んだのだが、ゴルフが趣味で持病があるなど、ファンには見逃せない情報がある。作品からイメージする作者とは若干違ってはいるが、それでも語り口から頑固な面を持ち合わせているのだろうということは察知できた。売れっ子作家が、テレビの企画とはいえ、苦行に挑む姿というのは、人々の興味を惹きつけるのだろう。普段は作品の中でしかお目にかかれない作者の隠された本性が垣間見えたのだろうか。番組は見ていないが、俄然、番組に興味がわいてきた。

TVの出演者がその裏側をエッセイで描くというのは、興味深い。




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