ホワイトアウト 真保祐一


2010.5.25  寒さを感じる雪山のすさまじさ 【ホワイトアウト】

                     
■ヒトコト感想
武装グループとダム運転員の戦い。ミステリー的な何かよりも雪山を一人で逃げ回り、戦いを挑む冨樫にしびれた。ダムからの放水に巻き込まれ、下着姿で雪山に倒れこむ。不眠不休で雪山を移動し、武装グループと激しい戦いを繰り広げる。冨樫のボロボロになりながら戦う姿は、ダイハードのマクレーンと重なるように思えた。膝まで埋まるほどの雪山では、ただ移動するだけでも相当の体力を消耗するのは経験上よくわかる。心が折れそうになりながらも、過去の出来事にひきづられながら心を鼓舞する冨樫の姿には心打たれてしまう。雪が降り積もる山中で何キロも歩く。想像しただけでも吐きそうになる。事件は意外なほどあっさりとした終わり方だが、雪山でのすさまじさは読んでいて寒さを感じるほどのリアリティだ。

■ストーリー

日本最大の貯水量を誇るダムが、武装グループに占拠された。職員、ふもとの住民を人質に、要求は50億円。残された時間は24時間!荒れ狂う吹雪をついて、ひとりの男が敢然と立ち上がる。同僚と、かつて自分の過失で亡くした友の婚約者を救うために―。

■感想
ダムを占拠する謎の武装グループ。雪深い山奥のダムを占拠するメリットを存分に活かした作品だ。唯一の出入り口であるトンネルを破壊することで、外部から一切の助けがこない孤立した状態で、一人ただのダム運転員である冨樫が武装グループと戦いを繰り広げる。アクション映画さながらの激しい銃撃戦というよりも、雪山という地の利を活かした戦いが繰り広げられる。巨大な電力をストップすることがそれほど有効ではなく、最終的にはダムの係員たちを人質にするというのはちょっと残念だった。もっと、ダムならでわの何かがほしかった。

ただ、雪山での冨樫の行動は想像を絶する動きだ。雪深い地で歩くのは、ただでさえ辛く苦しいものだ。それをズタボロの満身創痍でありながら、果敢に武装グループに戦いを挑もうとする。湖も凍るような気温の中で、ダムの放水に巻き込まれるなど、考えただけでも寒気がしてくる。一般人の感覚では、雪山で一晩すごすなど到底できるはずがないと思うが、冨樫はちょっとした木の下でビバークすれば、なんとか持ちこたえることができる。この逞しい山の男の生き様に心打たれてしまう。

武装グループの正体と目的が明らかとなっても、それほど大きな衝撃はない。警察との交渉についてはさすがに想像外のことだったが、武装グループの先行きはなんとなく想像できた。ミステリー的な驚きよりも冨樫の執念とも言うべき行動ばかりが印象に残っている。もう、このあたりで止めておけばと思うことが何度もあった。どう考えても無謀としか思えない行動の数々。雪山を何キロも歩くという吐き気がしそうな流れ。冨樫の疲れきった描写というのは、読んでいる者にまで、その疲れを伝染させる何かがある。

冨樫の行動を読むと、普通の雪面がまるでリビングのように感じられてくる。



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