クジラの彼  


 2012.5.15   特殊な環境での恋愛 【クジラの彼】

                      評価:3
有川浩おすすめランキング

■ヒトコト感想

空の中」「海の底」に関連した自衛隊恋愛短編集。ただの恋愛短編集ではなく、頭に自衛隊とつくところが、間違いなく作者の特徴だろう。「空の中」「海の底」を読んでいないと真の良さはわからないかもしれない。読めば即座に虫歯になってしまうほど大甘な展開と、自衛隊という特殊な環境ではぐくむ、困難を乗り越えた熱い恋愛を感じられるだろう。壁が高ければ高いほど、物語としても盛り上がり、恋愛物としての強烈な甘さをアピールできるのだろう。もちろん、恋愛だけでなく、自衛隊の内情などがよくわかるのはいつものとおり。一般の恋愛小説とは根本がちがっているので、感情移入するのは難しいかもしれないが、興味はわいてくる。

■ストーリー

『元気ですか?浮上したら漁火がきれいだったので送ります』彼からの2ヶ月ぶりのメールはそれだけだった。聡子が出会った冬原は潜水艦乗り。いつ出かけてしまうか、いつ帰ってくるのかわからない。そんなクジラの彼とのレンアイには、いつも7つの海が横たわる…。表題作はじめ、『空の中』『海の底』の番外編も収録した、男前でかわいい彼女たちの6つの恋。

■感想
「海の底」のキャラクターの恋愛話は面白い。「クジラの彼」や「有能な彼女」は、「海の底」で活躍した自衛官二人のその後の恋愛が描かれている。潜水艦乗りがどれほど恋愛に向いておらず、別れる可能性が高いということや、過酷な日常など、一般の人の想像を超えた恋愛環境が待っている。ただ、その先には、高いハードルを越えたベタベタの甘い恋愛がまっている。恋愛に対して高い壁がある環境というのは、もしかしたら、逆に良い刺激になるのかも、なんて感じてしまうのは、一般人だからだろう。

自衛隊三部作とは絡まないオリジナルな短編も面白い。それらは自衛隊という特殊な環境による、恋愛のモヤモヤ感が描かれている。「国防レンアイ」で語られる、女は男をよりどりみどり、なんていう環境は容易に想像できる。逆に男の立場の辛さというのもわかる。ある意味、毎日が男子校状態なのかもしれない。外泊も事前に申請をださなければできないような状況というのは、社会人になってからは想像がつかない。そんな制限された環境だからこそ、本作のような甘い盛り上がりがあるのかもしれない。

本作を読んでいると、自衛官というのは結婚にこぎつけるのが大仕事のように感じてしまう。恐らくはそれが真実なのだろう。恋愛小説なので、男女の色恋が描かれるのは当然だが、つい、それらの影に隠れた、女性に見向きもされない孤独な自衛官というのをイメージしてしまった。ある程度チャンスがある人でさえ難しい状況ならば、チャンスが雀の涙ほどしかない人にとっては、まさに命がけなのだろう。無理だとは思うし、面白みがないのかもしれないが、モテない自衛官男の苦しみというのも描いてほしかった。

恋愛小説といっても、自衛隊が舞台というと、微妙な気もするが、大甘なのは間違いない。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp